2024年は、8年ぶりのリアルdrupaの開催が話題となった。実績については既報の通り、内容はデジタル印刷の一層の拡大の一方で、前回比大幅な訪問者の減少となった。近年の印刷産業の展示会の縮小については、様々な評論・見解が述べられてはいるが、「インターネットによる情報提供の拡大」が最大要因であることは言うを待たないであろう。「デジタル化の発展による印刷需要の減少(ボリューム)」を理由に挙げる人もいるだろうが、商材の多様化の側面もあるので市場規模の縮小は、ある一面に過ぎないだろう。
一昔前、グローバルな展示会と言えば、drupa(独)を筆頭に、Print(米)、IPEX(英)、IGAS(日)が四大展示会と呼ばれていた。現在はすっかり様変わりをして、集客に関してはChinaPrintを始めとする中国系の展示会が上位に名を連ねるようになった。昨今の日本国内の展示会も変化をしてきてはいるが、大きくは下記に分類されるだろう。
- 全国規模の総合展示会:IGASなど(デジタル技術主体ではあるがpageもこれに分類されるだろう)
- 業界特化の展示会:ラベル・フォーラムなど
- 地方の総合展示会:JP、九印展など
- メーカー展示会:新製品発表に絡めたものが多い
- 卸企業による展示会
さらには、4,5の小型版の個展は数多い。情報疎通がネット中心の社会になった現在でも、展示会は、市場や業界の姿、トレンドを映すものとして、特に温度感(展示側の熱量)や背景の読み解きにはやはり欠かせないものだと思う。直近で2,4にかかわる展示会(イベント)が開催されたので、コメント含めた報告をしたい。
SCREEN「インクジェット・イノベーション・センター京都」
10月3日にSCREENの久御山東工場にて、「インクジェット・イノベーション・センター京都」のお披露目があった。SCREENジャパンは、東京の門前仲町に「ホワイトカンヴァス」を既設であるが、drupa2024で展示した意欲的なインクジェット印刷機の製品群のショールームとしては場所の制約が大きいということで新規に開設したとのことである。
インクジェット輪転機TruePress560HDXなど2機種、紙軟包装機、ラベル機とdrupa会場さながらに設置されていた。
大手印刷機メーカーは、デジタル、アナログ問わず、国内に、機械検証を兼ねたデモルームを開設しているが、SCREENのIICは「インクジェット・イノベーション」と銘打った唯一の技術特化型のショールームである。まだ新製品展示中心の構成ではあるが、SCREENグラフィックソリューションズ田中社長の「インクジェットに焦点を当てた、技術の深耕と製品の応用展開を図ってゆく拠点」との意図が現れたネーミングである。特に、「一般商印業界は、まだコアビジネスではあるが、今後成長するのは包装とラベルの領域」と明言されていたので、成長ビジネスの拠点化を図ってゆくものと思われる。
今後SCREEN主催の個展も多く企画されるのであろうが、多くの企業の寄合展示である総合印刷展から、各メーカーとも個展によりウエイトを置き始めている傾向があるようだ。一般商印市場縮小により新規の開拓が難しくなってきた現在、既存顧客への提案は、One to One型の、より深堀やカスタマイズがし易い環境の方が良い。
HORIZON「HORIZON SMART FACTORY 2024」
翌週のHORIZONの琵琶湖工場で開催された‘HORIZON SMART FACTORY 2024’は、一企業の個展としては、かなりユニークなものである。2019年の京都みやこメッセでの開催以降、印刷機械の次工程という後加工機械メーカーの立ち位置を徐々に変えてきていることを実感する。自社製品を単純に展示するのではなく、各印刷機メーカーとのコラボレーションを推進することにより、トータルでのシステム訴求を提案している。メインフロアでは勢ぞろいしたデジタル印刷機大手がブースを構え、さながら総合展示会のようであった。前回のIGAS2022でも各社との連携を大きく打ち出し、主役ではないかと思われる存在感を示していたが、すっかり定着した感がある。
それを第一段階とすれば、今回はさらに取組を深めて、印刷現場の徹底したDX化を推進すべく、生産工程の省力化から無人化へと進めてゆこうという意欲的な姿勢が前面に出ていた。デジタル印刷機の開発・上市については大手プリンターメーカーがしのぎを削っていて、それこそオフセットに比肩する刷り単価の比較や、メディア対応力などでの競争が激しい。ただ、多くは変動費に目がいっており、固定費の多くを占める労務費の負荷が最もかかっているのは、ポストプレスの工程である、ということの認識が相対的に薄いのではないか、と思うことが多い。
多くのAGVやロボットアームが動き回る会場で、HORIZONは、お題目だけでなく実践としての改革を示したかったのだろう。それは、とりもなおさず、所謂‘後加工機’メーカーが、今までのどちらかと言えば印刷機の後についてゆくポジションととらえられていたが、対顧客の最もフロントに出てゆくことを意味する。2025年にはHunkeler Innovation Days 2025が開催される。Drupa2024の訪問者激減の一方で、HORIZON同様、毎回好調に増加していると聞く。総合展と個展の違いはあるが、顧客の経営視点の変化と言うのが感じられるところである。
「TOKYOPACK2024」「ラベル・フォーラムジャパン」
10月23日~25日、東京ビッグサイトで、「TOKYOPACK2024」と「ラベル・フォーラムジャパン」が同時開催された。ラベル・フォーラムは初のビッグサイト開催であったが、東京パックとの相乗効果もあるのか活気を呈していた。
最大ブースを占めたのはEPSONであり、新型SurePress L-5034を展示した。リアルタイムノズル補完やAQオプティマイザーといった新技術を搭載し、最終日には8件の成約リボンバラが掲げてあった。
直前に、兼松と韓国VALLOY社製品の販売協業を発表したSCREENは、自社製品とのラインアップ構築に一歩踏み出した。前述のように、今後パッケージ、ラベル市場にウエイトを増やしてゆく意図の表れであろう。
トナーデジタルラベル機ではグローバルでトップのコニカミノルタでは、新製品は無いもののトナー5色機Accurio Label400を展示。一般印刷向けのトナーPODは競争が激しいが、この分野では地保を固めて、デジタル化を先導していってもらいたいものである。
プリンターメーカーでは、他にも小型の卓上入門機を沖電気、キヤノンが展示。大型デジタル機やフレキソ印刷機などは各社が説明展示を行っていた。また、後加工機、検査機、ワークフローなど、関連展示も多かったが、デジタルの市場熟成はまだこれから、という印象であった。
TOKYOPACKは包装技術の展示会であるので、印刷はその一部に過ぎないが、盛況で昔日の印刷総合展示会を思い起こさせるものであった。ビッグサイト東館の全館を使い、3日間の総入場者数は70,712(来場登録者数。ちなみにのべ入場人数は221,301人)とのことである。前回2022年の130%超えである。前回はコロナ禍の影響もあったので割り引いて考えねばならないが、それにしても 展示面積も圧倒的なdrupa2024が11日間で17万人であったことを考えると、集客力は一段レベルが違う。
勿論、エンドユーザーから多様な業界のメーカー、ソフト会社等の出展社だけでなく、想定顧客の裾野も圧倒的に広いのだが。印刷業界の会社も何社も出展していたが、ある印刷業界の会社では、「今回初出展でいつもの印刷展示会より緊張感はあるが、8割は新規の顧客。ビジネス開拓には同じ場所に居てはいけないね」とのコメント。新規技術、環境対応、AI/DX、といったテーマは同じだが、多様なサプライヤーが参画することによって、融通無碍にテーマを転がしているかの印象がある。
常に思っていることだが、印刷産業の裾野は広い。関連のビジネスで言えばおよそ殆どの業種に関わっていると言っても過言ではないだろう。我々は常に、「印刷」をトップラインに置き過ぎてはいないだろうか? 印刷の展示会で包装印刷の展示をするのと、包装の展示会で印刷の提案をするのとでは、同じようで集客が全然違うのである。(単に人数ということではなくて顧客層)それは、長年にわたり言われ続けてきた、Product-OutとMarket-Inの違いなのかもしれない。そんなことは耳にタコと言うなかれ。お題目でなく実践できるかどうかである。
実は、ラベル・フォーラムは、極めてProduct-Out型の展示会である。但し、市場+デジタルという観点から見れば、成長領域と言って良いだろう。ビジネス成長期には、Product-Outがワークする好例かもしれない。
展示会の性格からは全く別傾向の二つの展示会が、共存しつつ集客を重ねている姿は興味深いものがあった。
技術特化、客フロント、成長ビジネス、Market-In、いくつかのキーワードを書いてみたが、いずれにしろ今迄主流の「よろず百貨店方式」は分が悪くなってくるだろう。出展するメーカー側も、「この製品の性能機能をPR」という、どの展示会でも同じことをやらないで、地方特化:地元企業とのコラボここだけ、とか、他イベントとのコラボレーションとか、それぞれ一味違うものを提案する必要に迫られるのではないかと思うのだろうが、如何であろうか。
「インクジェット・テクノロジー・フェア」
最後に、10月28日、29日に開催された、「インクジェット・テクノロジー・フェア」について述べたい。これはOIJC(大野インクジェットコンサルティング)主催の展示会であるが、他に例の無いユニークな展示会イベントである。
キーワードは「インクジェット技術」「グローバル」「人的交流」の3点に徹底的に絞り込まれたもので、殆ど大野代表の個人技で執り行われているが、今回も盛況であった。まさしく、「よろず百貨店」と対極をなすもので、山椒は小粒で…を地で行く好例かと思う。