コロナ後の印刷世界Part 2 模索編

想定すべきは最悪の事態か? 仮説は、「あらゆる産業が根本からの変革を要求される」。自粛を要請されていた産業は、大いに棄損され、復旧は困難となり、ネットが生活の基軸となって、既存の機能を代替してゆく。小売業はネット通販に置き換わり、スーパー等の店舗が配送拠点となる。外食業は、調理拠点、配送拠点となり、旅行業は壊滅し、ホテル、航空、鉄道会社は再編される。都心の事務所の賃貸料金、地価は大幅下落し、イベント型、劇場型ビジネスは壊滅。学校も企業もすべてオンラインが基調となる。
このように、印刷業の顧客が、変わることを強制されている。印刷業はどうするか?
想定すべきは最悪の事態か?

仮説:あらゆる産業が、根本からの変革を要求される

  1. 自粛を要請されていた産業は、大いに棄損され、復旧は困難。
  2. ネットが生活の基軸となって、既存の機能を代替する。
     ・小売業はネット通販に置き換わる。
     ・スーパー等の店舗が配送拠点となる。
     ・外食業は、調理拠点、配送拠点となる。
     ・旅行業は壊滅し、ホテル、航空、鉄道会社は再編。
     ・都心の事務所の賃貸料金、地価は大幅下落。
     ・イベント型、劇場型ビジネスは壊滅。
     ・学校も企業もすべてオンラインが基調となる。

このように、印刷業の顧客が、変わることを強制されている。印刷業はどうするか?Smithersが予測するように、包材関連はGDPにリンクする範囲での減少にとどまるが、商業印刷、出版印刷においては、パンデミックが全てのデジタル化の時間を一気に縮めてしまったことにより、大幅減少は避けられず、印刷業が印刷物だけを顧客に届けるビジネスモデルは、終焉してしまうのか?

現実は思ったほど酷くないかも? 米国の印刷市場が回復傾向

米国月次商業印刷出荷額 2016-2020(10億$、消費者指数によるインフレーション調整後)

 

2020年5月の印刷出荷額は64.2億ドルで、4月の65.1億ドルからわずかに減少し、1月の72.1億ドルから大幅に減少。世界的なパンデミックが問題を引き起こしていなかった2018年2月より増加。6月に66.3億ドルに回復。2017年7月よりも良い。

リバウンドは続くー8月の印刷出荷状況

 

3か月連続で増加。2019年8月には遠く及ばずとはいえ、辿ってきた道程を考えると悪くない。

要因1:パンデミックの最悪期からの回復し、企業は大部分が再開している
要因2:今年のハイライトともいえる、社会的距離と他の安全標識のための巨大な印刷需要。
要因3:選挙

現状から判断すると、パンデミックにより大いに売上は棄損されたが、過去に印刷業界が経験してきた振れ幅の中に収まっている。業界としては、生き延びることが出来る範囲ということであろうか。

日本の上場印刷企業は?

第一四半期(4~6月)、第二四半期(7~9月)の一部の上場各社の決算短信を斜め読みして、日本の印刷業界の動向を探ろうと思う。各社の細かい数字を見ていくのはそれなりに時間と労力を要し、かつ直ちに陳腐化するので、まずは要点を述べたい。

共通点
*各社ともコロナを理由に売上、利益の減少を報告
*各社のコロナ対策の多くは:
①デジタル関連の新規売上増
②事業改革
③費用削減
が3本柱となっている。

  • DNP、凸版の報告から、情報コミュニケーション部門の減少、BPOの増加、生活関連の微減、が全体市場動向と読み取れる→ほぼSmithersの予測通り
  • 印刷全方位に向かって圧倒的なポートフォリオを持つ両社は、減少した部門を他がカバーする傾向がみられ、売り上げ面では大きな減少はみられず、第二四半期では回復傾向にある(除くDNPの生活資材)
  • 第一四半期の決算短信時点で、次年度の業績予測を発表したのは、両社に加えてトッパン・フォームズのみ。その他は不透明性を理由に未発表であった
  • トッパン・フォームズの中核であるデータ&ドキュメント事業は、第一四半期の売上は△2.3%であったが第一四半期の売上は△5.1%と減少しており、第一四半期には通知系の特需があったことを伺わせる
  • 印刷専業、さらには特定の分野の比率が高い企業の売上の落ち込みが目立つ
  • 各社とも、費用削減、構造改革に取り組んでいることが伺える。
  • 特筆すべきは共立印刷と竹田印刷の第二四半期であろう。共立の第一四半期の売上は△36.9%、利益は△313%と調査グループ中最大の落ち込みであったが、第二四半期の売上は△21.2%に対して、利益は+62.9%であった。竹田印刷の第一四半期は売上△18.8%、営業利益△645%と落ち込んでいるが、第二四半期は売上△19.8%と同レベルでありながら、営業利益は+12.5%と増益し、通期でわずかながら利益を出している。両社ともに収益構造に、迅速、かつ大幅な改善がみられる
  • 回復基調であるが、商品構成が同じままではなく、変化がみられる
  • 各社とも経済危機の直後の設備投資意欲は冷え込み、印刷機械メーカーの売上は厳しいことが予想される。小森コーポレーションは2008年のリーマンショックにより、その後2年間で売上が半減している

コロナ後の印刷世界―コロナ前に「復旧」してはならない

コロナ以前の世界が、完璧な世界であったかというと、そうではなかった。改善せねばならぬこと、改革せねばならぬこと、大胆に変革せねばならぬこと、を大量に抱え、日本は低生産性に喘いでいた。少しも変わらぬ政治の世界を見ていれば、よくわかる。印刷業界も例外ではない。生産性は低く、自動化は遅れ、総じて利益率は低かった。ところがコロナにより大きな打撃を受け、惨憺たる状況になったことにより、過去の平穏時に戻ることが願いとなっていないであろうか? ここで「復旧」してはならない。元に戻ってはならない。そこは決して夢の世界ではなく、不効率による低生産性と、その改善を阻む「壁」の塊であった。それは長年の積み重ねによる進化の結果として、致し方のない事でもあったが、コロナによって変革を強要されている。

コロナは、東京を大空襲で焼き払うわないし、広島、長崎に原爆を落としたりもしない。旧式の生産設備を全て破壊しつくしてしまうわけではない。しかし、それに匹敵する影響を与えつつある。人の動き方、関わり方、そして働き方が根本から変わろうとしている。これを持って、単なる災厄と見なし首を縮めて行き去るのを待つか、変革の機会であると捉えて行動するかで、未来は決まる。Part3では、変革しつつある印刷企業ならびにその方向性を探っていく。

ケーススタディ(資料編)

ここで一部の上場各社の四半期の数字を見てみたい。

大日本印刷株式会社

セグメント:
印刷事業(情報コミュニケーション事業、イメージコミュニケーション事業、出版関連事業)、生活・産業部門(包装関連事業、生活関連空間事業、産業用高機能材関連事業)

対策:
IoT・次世代通信関連事業や環境関連事業などの注力事業への経営資源の最適配分

業績予想 売上高 営業利益 経常利益 純利益
21年3月期通期 1,340,000 40,000 48,000 21,000
対前年増減率 △4.4% △28.9% △24.7% △69.8%
業績 20年1Q 20年2Q抜粋 20年2Q累計
印刷事業 生活・産業 印刷事業 生活・産業 印刷事業 生活・産業
売上 172,194 90,994 174,109 87,626 346,303 178,620
前年売上 190,650 95,128 188,349 102,037 378,999 197,165
対前年比 -9.70% -4.30% -7.60% -14.10% -8.60% -9.40%
営業利益 3,561 1,713 2,849 2,112 6,410 3,825
前年利益 6,845 1,828 5,953 3,113 12,798 4,941
対前年比 -48.00% -6.30% -52.10% -32.20% -49.90% -22.60%
凸版印刷株式会社

セグメント:
情報コミュニケーション事業分野(セキュア、ビジネスフォーム、コンテンツマーケティング、BPO)、生活・産業事業分野(パッケージ、建装材)

対策:
SDGs推進体制を構築するとともに、取り組みに関する基本的案考えをまとめた「TOPPAN SDGs STATEMENT」に基づいて活動

業績予想 売上高 営業利益 経常利益 純利益
21年3月期通期 1,440,000 40,000 38,000 22,000
対前年増減率 △3.1% △39.8% △43% △74.7%
業績 20年1Q 20年2Q抜粋 20年2Q累積
情報コミュニケーション 生活・産業 情報コミュニケーション 生活・産業 情報コミュニケーション 生活・産業
売上 186,817 103,780 212,422 104,744 399,239 208,524
前年売上 205,519 100,683 224,140 104,230 429,659 204,913
対前年比 -9.10% 3.10% -5.20% 0.50% -7.10% 1.80%
営業利益 2,781 5,466 11,573 5,422 14,354 10,888
前年利益 4,276 5,458 11,037 6,968 15,313 12,426
対前年比 -35.00% 0.10% 4.90% -22.20% -6.30% -12.40%

※BPOでベルシステム24と合弁を発表

共同印刷

セグメント:
情報コミュニケーション部門(出版、一般商業印刷)、情報セキュリティ部門(データプリント、ビジネスフォーム)、生活産業資材部門(包材)

対策:
出版印刷ではデジタルソリューションの提案推進によるデジタルコンテンツの受注拡大、知育・教育関連分野の受注拡大
データプリントを核としたBPOの受注拡大、法人決済ソリューション事業の拡大

業績予想 売上高 営業利益 経常利益 純利益
21年3月期通期 95,000 500 1,100 600
対前年増減率 △5.8% △68.1% △49.2% △60.3%

※21年3月度業績予想:8月26日に発表し、第二四半期発表時には変更なし

業績 20年1Q 20年2Q抜粋 20年2Q累計
情報コミュニケーション セキュリティ 生活・産業 情報コミュニケーション セキュリティ 生活・産業 情報コミュニケーション セキュリティ 生活・産業
売上 7,856 7123 7,081 8,698 6,333 6,494 16,554 13456 13,575
前年売上 8,981 8174 6,573 10,135 8,239 6,518 19,116 16413 13,091
対前年比 -12.5% -12.9% 7.70% -14.2% -23.1% -0.40% -13.4% -18.0% 3.70%
営業利益 -465 284 46 -48 152 -161 -513 436 -115
前年利益 -391 385 -64 2 432 -59 -389 817 -123
対前年比 18.9% -26.2% -171.9% -2500% -64.8% 172.9% 31.9% -46.6% -6.5%

※21年3月度業績予想:6月末時点で「未定」

トッパン・フォームズ株式会社

セグメント:
データ&ドキュメント事業、ITイノベーション事業、ビジネスプロダクト事業

対策:
従来型のソリューションと最先端のデジタル技術を掛け合わせた「デジタル・ハイブリッド」を軸とした成長戦略

業績予想 売上高 営業利益 経常利益 純利益
21年3月期通期 214,000 7,000 8,300 3,100
対前年増減率 △4.5% △14.3% 0 0

※21年3月度

業績 20年1Q 20年2Q抜粋 20年2Q累計
データ&ドキュメント ITイノベーション データ&ドキュメント ITイノベーション データ&ドキュメント ITイノベーション
売上 37,816 6,821 37,650 6,895 75,466 13,716
前年売上 38,719 7,195 39,673 7,113 78,392 14,308
対前年比 -2.30% -5.20% -5.10% -3.10% -3.70% -4.10%
営業利益 2,600 571 2,917 637 5,517 1,208
前年利益 2,610 898 2,819 461 5,429 1,359
対前年比 -0.4% -36.4% 3.5% 38.2% 1.6% -11.1%
共立印刷株式会社

対策:
既存事業の受注・生産体制を見直しスリム化、新規事業領域の拡大(ピッキングから発送管理までの物流事業における設備増強やワンストップ生産体制の充実)

業績 20年1Q 2Q抜粋 20年2Q
売上 6,757 8,836 15,593
前年売上 10,700 11,214 21,914
対前年比 -36.9% -21.2% -28.8%
営業利益 -345 246 -99
前年利益 162 151 313
対前年比 -313.0% 62.9% -131.6%

※21年3月度業績予想:第一四半期決算短信時:未定
※事業構造を改善、のれん減損、設備見直し、事業構造改革費用8億8600万円を計上
※21年3月度業績予想:第二四半期決算短信時:未定

株式会社 廣済堂

セグメント:
印刷、ビジネスイノベーション、エコビジネス、出版

対策:
保有する印刷・IT・BPO等のセグメント間のリソースを効果的に組み合わせた情報ソリューション提供を強化

業績 20年1Q 2Q抜粋 20年2Q
情報 情報 情報
売上 3,687 3,811 7,498
前年売上 4,623 5,393 10,016
対前年比 -20.2% -29.3% -25.1%
営業利益 -69 -369 -438
前年利益 -308 65 -243
対前年比 -77.6% -667.7% 80.2%

※21年3月度業績予想:精査中
※特別損失:20年3月期 △872百万円(事業構造改革費用引当)
※特別利益:21年第二四半期 200百万円(上記の戻入れ)

業績予想 売上高 営業利益 経常利益 純利益
21年3月期通期 30,000 1,400 1,200 -400
対前年増減率 -14.50% -39.90% -45.70%

※業績予想:第二四半期決算短信と同時に発表
※大幅な減収も、外注費の抑制、固定費等費用削減で対前年比損失額を縮小
※一部書籍需要拡大、大型BPO受注も、商業印刷の需要減少で大幅な減収
※不採算子会社の譲渡で損失額は減少

竹田印刷株式会社

セグメント:
印刷(半導体関連マスク事業を含む)、物販

対策:
売上の確保、コスト・経費の削減はもちろん、顧客にとっての価値を創出、または増大させる課題解決提案、安易な価格競争に巻き込まれないビジネスモデルへの転換

業績 20年1Q 20年2Q抜粋 20年2Q累計
印刷 物販 情報 物販 情報 物販
売上 4,320 2,429 4,580 2,923 8,900 5,352
前年売上 5,320 2,756 5,707 3,858 11,027 6,614
対前年比 -18.8% -11.9% -19.7% -24.2% -19.3% -19.1%
営業利益 -217 -82 36 20 -181 -62
前年利益 -28 -8 32 177 4 169
対前年比 675% 925% 12.5% -88.7% -4625% -136.7%

※21年3月度業績予想:第一四半期決算短信時:未定

業績予想 売上高 営業利益 経常利益 純利益
21年3月期通期 31,000 -50 50 -130
対前年増減率 -13.00% -91.50%

※21年3月度業績予想:第二四半期決算短信発表時

小森コーポレーション

対策:
販売費及び一般管理費が、人件費の低減や販売出荷費・旅費交通費の減少、その他経費の削減等により、営業損失は減少。

売上高 前第一四半期 当第一四半期 増減率
日本 6,461 6,082 △5.9%
北米 1,495 476 △68.1%
欧州 2,835 1,994 △29.7%
中華圏 3,535 2,353 △33.4%
その他地域 3,333 2,753 △17.4%
17,662 13,660 △22.7%
売上高 前第二四半期 当第二四半期 増減率 前第二四半期累計 当第二四半期累計 増減率
日本 9,740 10,145 4.00% 16,201 16,227 0.20%
北米 1,623 966 △68.0% 3,118 1,442 △53.7%
欧州 3,332 3,816 12.70% 6,167 5,810 △5.8%
中華圏 3,854 3,066 △25.7% 7,389 5,419 △26.7%
その他地域 4,857 2,256 △115.3% 8,190 5,009 △38.8%
23,406 20,250 △15.6% 41,068 33,910 △17.4%

※地域別業績

業績予想 売上高 営業利益 経常利益 純利益
21年3月期通期 71,000 △2,600 △1,900 △2,600
対前年増減率 △8.6%

※2020年3月期に事業資産177億円を減損
※第二四半期決算短信にて通期業績予想を発表

 

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