コロナ禍の中、カスタマーコミュニケーションマネージメント (CCM) 市場は、激変している。Aspire CCS は「デジタル化による新しい現実を理解する」というレポートを出版した。コロナが与える経済や文化への影響が、CCM市場にどのような変化を及ぼしているかについて調査したものである。本記事は全4回のシリーズの第3弾で、同レポートの要約だ。ソーシャルディスタンスにより、多くの企業が、従業員や顧客とのコミュニケーションをリモートで管理することを強いられている中、クラウドコンピューティングに移行することで、CCMからカスタマーエクスペリエンスマネージメント(CXM)へのトランスフォーメーション(変革)が加速している現状を報告する。
21 世紀になって20年が過ぎた。CCM市場は、その間、劇的な進化を遂げたと言えよう。昨年末、Aspire CCS は、「CCMからCXM へのトランスフォーメーションの現状」と題するレポートをまとめた。進化の背景にある原動力について、世界中の企業や市場のあらゆる関係者にインタビューを行い、調査したものである。
コロナ禍の中、企業はCXMへのトランスフォーメーションを加速させている。それを実現しようとする新たなエコシステムができつつあるが、その中で、 CCM ベンダーの立ち位置はどのようなものだろうか。Aspire は、コロナ禍が及ばす経済や文化への影響が、CCM市場にどのような変化をもたらすか、北米の消費者 2,000 人と、300 社の企業を対象に調査を行った。本記事は、 4 部構成のシリーズの第 3 弾で同レポートの要約である。
「デジタル化による新しい現実を理解する」の調査では、ソーシャルディスタンスにより、多くの企業が従業員や顧客とのコミュニケーションをリモートで管理せざるを得なくなっているが、クラウド化により、CCMからCXMへのトランスフォーメーションが加速していると言う。前回の記事では、企業がCXMへの道中のどの段階にあるかによって、「クラウドコンピューティング」の捉え方が異なることを解説した。それを表したのが以下の図である。
第1段階にある企業は、情報システム部門がCCMを統括する傾向にある。クラウドを導入する動機は、運用コストの削減、セキュリティの強化、規制への対応、リスク管理などが挙げられる。実際には、オンプレミス(自社設備よる自社運用)からプライベートクラウドに移行して、CCMを仮想化することだ。この段階にある企業を2019年に調査したところ、ほとんどがファイヤーウォールで保護されたプライベートクラウド上でオンプレミスのままCCMを運用すべきと回答している。
企業がCXMへの道を歩み続けると第二段階に到達する。この段階ではCCMの管轄が情報システム部から、ライン部門に移管されていく。ライン部門の担当者は、長いサイクルタイム、高コスト、官僚的なプロセスなど、情報システム部門が管轄していた時に妨げとなっていた様々な課題の一部を少しでも取り除こうと、クラウド化という手段を用いようとする。そこで検討するのが情報システム部門から独立したCCMのSaaS(Software-as-a-Service)の導入だ。しかし、個人情報(PII)をクラウドに移行させるリスクが伴うため、情報管理部門やセキュリティ担当部門から制約を掛けられてしまうことがしばしばだ。企業の過半数が、マーケティング関連のコミュニケーションはクラウドでも可能だが、業務やコンプライアンス関係のコミュニケーションは、オンプレミスのままであるべきと回答している。
とはいえ、ポストコロナの世界でビジネスを行うために、企業は、このような障壁を乗り越え、CXMの第三段階へと推し進めていくであろう。この段階にある企業は、リモートアクセス、即時更新、迅速な導入、優れた拡張性、簡単な統合、オンプレミスと比較した高い俊敏性などを実現すべく、CCMのクラウド化に積極的だ。
これらの変化に対応するために、CCM ベンダーはサービスを、クラウドに最適化した、マイクロサービス・アーキテクチャ上で動作する、ハイブリッド/マルチテナント・クラウド・アプリケーションへと進化させなくてはならない。更に、コンテンツやテンプレートの作成、合理化や移行作業などを効率化し、ユーザーがデータ・情報交換を円滑に管理できるように、人工知能(AI)技術のプロバイダーへ投資や提携することで、企業のCCMからCXMへのトランスフォーメーションを支援することができるだろう。
Aspireが、最近発表した「デジタル化による新しい現実を理解する」の調査では、300社の企業が、オムニチャネル・コミュニケーションへの道のりで最も大きな障害となるのが、「過剰なテンプレートの数だ」と回答している。また、コロナ禍の中で、最も重要になりつつある経営目標は、「カスタマーコミュニケーションの改善による顧客維持だ」という。今のところ、AIを活用してコミュニケーションを改善したり、テンプレート数を削減している企業は、全体の3分の1程度に過ぎない。だが、半数近くがAIへの投資を計画しているため、テクノロジーベンダーにとっては、それを支援する大きなビジネスチャンスが期待されよう。
コロナ禍による、ソーシャル・ディスタンシングで、世相やビジネス環境が大きく変わり、カスタマーコミュニケーションのデジタル化が、嘗てないほど加速している。
調査によると、生活者は自宅、職場、外出先を問わず、カスタマーコミュニケーションをスマホで受信することを好むという。CCMベンダーはエンドツーエンドの自動化、コンプライアンス、暗号化によるセキュリティなど、モバイルファーストの設計思想を念頭にいれないとならない。今後、新規加入、契約、通知など、様々なコミュニケーションは、紙からデジタルへのシフトが顕著になっていく。生活者や事業主が使うモバイルフォームは、電子署名、モバイル決済、デジタルアーカイブなどの機能と統合できるものにしなくてはならない。
また、若年層や富裕層は、インテリジェント・バーチャル・アシスタント(IVA)を介して、企業と双方向の対話することを好む。この種の生活者にとって、時間は貴重なもの。特にコロナ禍で在宅勤務をしながら、子供の半リモート教育の面倒をみて、厳しくなる家計の心配をしなくてはならない。CCMベンダーはIVAを活用することで、生活者にはシームレスかつ理想的な対話の手段を、そして、企業へは迅速かつ信頼性の高いコミュニケーションを提供することができよう。
企業がCXMの成熟化に向けて歩みを進めていくにつれ、CXの専門家とビジネスユーザーは、管轄するジャーニーインサイトに基づくスマートオーケストレーションテクノロジーが必要とってくる。2020年の調査では、多くの企業がコロナ対策チームを組織し、共有サービスやセンターオブエクセレンス(CoE:組織を横断する部署や拠点・役割)を構築し、メッセージを統一することで、中核にある経営戦略との連携を図ろうとしているという。また、世の中が益々不確実になる中、コントロールを取り戻すために、アウトソーシングされていた、カスタマーコミュニケーションマネージメントを、再び内製化する企業もある。今まで以上に、生活者の健康や家計の心配に配慮した、関連性の高い(レレバント)良質なデジタル・コミュニケーションを提供することが、企業に求められてきているのだ。Aspireの調査では、若くて技術に精通した富裕層や、コロナの心配ごとが多い生活者は、コミュニケーションに不具合が生じると、他の企業に乗り換えて仕舞うとの結果がでている。その一方、企業の対応が優れていれば、その対価が高くとも払ってもよいと考える傾向もあると言う。
シリーズの最終回の次回の記事では、欧州の電力会社とのCXMコンサルタント事例を紹介する予定だ。
By | Will Morgan |
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Published | September 15, 2020 |
原文 | How CCM Technology Vendors Can Help Clients Achieve CXM in the New Digital Reality |