Quad/Graphics社: カスタマーコミニケーションの未来を切り開く(WhatTheyThink?)

企業のマーケターは、顧客とのコミュニケーションにおいて、日々様々な障害に直面している。顧客へのリーチが益々難しくなり、適切なメディアで適切なメッセージを伝えることで苦しんでいるのだ。本記事では、印刷大手のQuad/Graphics社が、印刷をもちいて、他のメディアと連携・補完する様々なサービスを提供することにより、いかにマーケターや出版社などのお手伝いをしているかについて取り上げる。

印刷業界に常に革新をもたらしてきたウィスコンシン州サセックス市のQuad/Graphics社は 、創業してから45年経つ。他社と異なる効果をもたらすものを提供していくことが企業理念だ。同社は、チャネルがマルチメディア化する世の中、マーケターと出版社が、印刷と他のメディアチャネルを連携・補完できるよう、様々なサービスを提供し、印刷そのものを再定義しようとしている。これは容易な事ではない。

企業のマーケターや経営者は、消費者とのコミュニケーションで、日々様々な障害に直面している。チャネルが多様化したため、顧客へ到達するための正しいメディアの選択が益々難しくなってきているのだ。マーケターは、適切なオーディエンス(聴衆)に適切なメッセージを適切なメディアで伝えることでたびたび苦しむ。InfoTrendsが最近行った「2016年度ドキュメントアウトソーシングのサービス拡大に関する.調査」によると、全てのコミュニケーションチャネルにおいて、顧客に途切れない連続した体験(シームレスなエクスペリエンス)を提供することが、多くの企業にとっての最大の課題だという。企業は、あらゆるメディアチャネルによるカスタマーコミュニケーションの配信、さらには付随するクリエーティブ、データ管理、データ分析など様々な高付加価値サービスによる支援を求めているのだ。印刷会社にとっては、これらの課題を解決することで、大きなビジネスチャンスとなろう。

企業が抱えるカスタマーコミュニケーションの課題



印刷会社にとってのビジネスチャンス

InfoTrendsが行った別の調査によると、2/3近くの企業は、時間と経費の節約につながるのであれば、データ、クリエーティブ、デジタルメディア、印刷、プリントマネージメントを統合的にバンドルしたサービスを提供する印刷会社との取引を前向きに検討していくという。印刷会社やマーケティング会社は、顧客の要望に応え、マルチチャネルのカスタマーエクスペリエンスを提供できるように核となる事業を拡大しようとしているのだ。先進的な印刷会社が広告代理店を取り込むことによって、顧客はデジタルに紙とその他のメディアと統合されたサービス提供を、容易にうけることができる。社内で新しいサービスを実施するための投資、アウトソースのために他社とのパートナーシップによる提携、あるいはそれらを掛け合わせながら提供してサービスを拡張している。

広告代理店事業に進出しようとする際、印刷会社は、「クライアントが本当にクリエーティブや広告代理店のような仕事を任せてくれるだろうか」と疑問をもつかもしれない。Quad/Graphics社の会長兼CEOのJoel Quadrucci氏は、「それはイエス」と断言する。「もう既に写真やページレイアウトについては任されていますよね」と彼は説明する。「弊社は、CMOやCEOなどとのお付き合いがあるため、印刷だけではなく、メディア支出の適切配分においてのお手伝いも可能だと説明しています。効率よく、オンラインとオフラインのチャネルを管理するパートナーと組むという考え方は、大小かかわらず企業のマーケターの間で受け入れはじめているのです」。


Quad/Graphics:マルチチャネル広告代理店サービスに進出

拡張し変化し続ける顧客のコミュニケーションのニーズに対応するため、Quad/Graphics社はサービスを進化すべく、様々な投資を積極的にしてきた。Quadracci氏は更にこう説明する。「デジタルがリアルの世界と融合していくにつれ、企業のマーケターはデジタルと従来のチャネル両方を整合させながら効果測定ができるパートナーを求めはじめているのです」。

2015年のはじめ、Quad/Graphics社は既存のBlueSoho社の事業を統合マーケティングエージェンシーとして再編成。アナログとデジタルチャネルの間で発生する様々な狭間の橋渡し役として、小売業、出版業、医療業界などにたいして売上げに直結し、結果をもたらすマーケッティングサービスを提供できるようにした。新しい事業は、3つのQuadの会社から構成される。


  1. Nellymoser社:Brown Printing社を2014年に買収したときについてきたモバイル向けの広告会社
  2. BlueSoho社:2004年にニューヨークで立ち上げた高級デザインの製作ブティック
  3. Quadメディアプランニング&プレースメント・グループ:2013年にVertis Communications社を買収したときに付随してきたメディアプランニング・出稿会社


BlueSoho社は、Quad/Graphics社が新規印刷ビジネスを獲得するために立ち上げた独立事業である。最近では、デジタルマーケッティング・エージェンシーのリーディングカンパニーであるRise Interactive社との提携を通じて、事業領域を拡大した。提携契約の一環として、Quad/Graphics社はRise社の株式を一部保有している。

同社は、デジタルに偏りすぎている広告代理店業界の現状を是正していくだろうとJoel Quadracci氏はいう。「BlueSoho社は、強固な分析機能をもちいて、高度にレレバント(関連性)で、一貫性のあるメッセージを配信することにより、紙とデジタルの全てのメディアにわたりクライアントの最適なマーケティングの投資配分を実現していきます。消費者のレスポンスと売上げをあげていくため、より関連性の高い(レレバントな)キャンペーンプログラムを、オンライン、オフライン、店舗内販促が最適にくみあわされ提供できるように、リソースを投入してきました」。


サービスのポートフォリオ

BlueSoho社は、キャンペーンの製作、買物客の活性化、モバイルあるいはデジタルのプログラミングなどを提供することによりQuad/Graphic社のマーケティングエージェンシーのメニューを拡大していく。BlueSoho社の社長兼Quad/Graphics社の製品・市場戦略担当上級副社長のEric Ashworth氏は、こう説明する。「結局、特定の個人に、適切なタイミングに、適切なメッセージを届けることに尽きるかと思います。 そうすることによって、Quad/Graphics社とRise社両社の顧客は、投資効率のよい効果的なマーケティングに投資し、消費者に向けた途切れのない体験の製作ができるのです」。サービスのポートフォリオは以下の通りだ。


分析とインサイト(知見)
メディアのプランニングと出稿
モバイルとデジタルの活性化
クリエーティブサービス
ワークフローの最適化とオンサイト管理
フルサービスの写真、動画スタジオ
POPサイネージとマーチャンダイジング
戦略的アカウントマネージメント



BlueSoho社のマルチチャネルマーケティング



マルチチャネル技術の実際

Eric Ashworth氏は、BlueSoho社とQuad/Graphic社が連携して、実際クライアントにどのように成果をもたらしたか事例を紹介してくれた。Quad/Graphics社は長年、スーパーの折込チラシを印刷してきた実績をもつ。折込チラシは、広告主にとって安価でターゲティングできる広告媒体だ。出費をおさえながら、商品に価値と信頼性を求める消費者に対して、ブランドメッセージを伝える有効な手段といえよう。昨今の市況において、マーケターとしては、消費者の財布のひもをゆるめ、カスタマーロイヤリティを高めたいもの。

あるスーパーのチェーンが、折込チラシを含めたメディア支出を劇的に削減したことを確認した後、BlueSoho社は、Rise Interactive社、そして、パッシブセンサーを用いて実際の店舗周辺情報を収集し、分析上の差を補正するSOLOMO社と提携。店舗で売られている3つの食品科目のマルチチャネルキャンペーンを成功させたのである。キャンペーンは全ての測定指標において予想以上の結果をもたらした。BlueSoho社はキャンペーンのクリエーティブ、メディアプランニング、モバイルの活性化の部分を担い、Rise Interactive社は有料のオンラインメディアを担当した。SOLOMO社は、ビーコンを使って店舗で、新規、及び、リピートの顧客をトラッキングした。その結果、POSのレシートで実際の売上げ動向をトラッキングしたところ、対象となった商品の売上げが二桁成長。更に同じく重要なポイントとして、新規顧客の来店が増え、メールとモバイルによるロイヤリティプログラムの加入が2倍になったという。

「これは、クライアントのために開発したソリューションのほんの一例」とAshworth氏は説明する。「企業は、適切なチャネルで、適切に顧客との結びつき(エンゲージメント)を行う努力をしなくてはなりません。印刷はメディアミックスの中で重要な役割を果たしつづけるでしょう。しかし我々が成功するためには、メディアミックスを最適化し、最善の結果をもたらす事によります」。


まとめ

マーケティングコミュニケーションの選択肢は複雑になるばかり。それにつれ、ビジネスチャンスも広がってきているといえよう。Joel Qudracci氏はこうまとめる。「BlueSoho社の売上げは、全体の3%にしか満たないが、弊社のメインビジネスに数倍増してかえってきます。」 あらゆる規模の印刷会社が、高度に関連付けられたデータ起動型のマルチチャネルの顧客コミュニケーションを提案する必要がある。今日のマーケットでは、高度なサービスでクライアントを支援することが、差別化の鍵となる。クライアントは喜んで聞いてくれる。Quad/Graphicはこの機会を最大に活かす会社である。


 

 

  

whattheythinkmini
By Barb Pellow
Published 2016年8月25日
原文 http://whattheythink.com/articles/82249-book-publishing-printed-books-live/
翻訳協力 Mitchell Shinozaki

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