展示会報告 Interpack (1)全般
Interpackは3年に一度、ドイツのデユッセルドルフで開催される世界最大の(と言っても差し支えないかと思います)パッケージ関連産業の総合展示会で、今年は5月4日から10日までの日程でした。デジタルプリント機器のメーカーが多く出店していましたが、特別な存在感のあるHPに関しては「展示会報告 Interpack(2)HP」として別報告としますので、ここでは全体像と個人的な発見などを書き記します。またHP以外の出展者は「「展示会報告 Interpack(3)その他出展者」として別報告します。
場所はDRUPAでお馴染みのMesse Dusseldorf。中央駅から路面電車に乗りMesse駅で降り、エスカレーターで2回に上って入場手続きをする・・・去年の6月にDRUPAに来た時と同じパターン。エレベーターの塔に取り付けられたMesse Dusseldorfのロゴも懐かしい風景です。4年ごとの開催のDRUPAと、3年ごとのInterpackが前回同じ年に開催されたのは2008年、という訳で3と4の最小公倍数である12を足して次回2020年には、この場所で同年開催されるということになります。
会場は大きく3つに色分け(カテゴリー分け)されていて:
- 青色 :食品・飲料・医薬品・化粧品・一般用品(非食品)・工業製品の包装機械および包装工程関連製品
- 黄色 :包装資材・副資材およびその製造機械
- 橙色 :お菓子・クッキー・パン類の包装機械および包装工程関連製品
となっています。歴史的な経緯や技術的な違いからか、お菓子やパンが別扱いされているようで、かつそのスペースがその他もろもろの製品の半分とかなりの位置づけになっているのが、包装業界素人の目には不思議に映ります。(上図の青色と橙色の対比)
主催者の最終プレスリリース(総括)によれば、入場者数は7日間で17万人強、DRUPA2016が11日間で26万人強だったので、一日平均はどちらも2.4万人と、展示会の「賑わい度」としては同レベルに見えます。出展社数は約2,900社、来場者の国籍数は164か国と国際的なカバレッジを持つ展示会であることが強調されています。
今回のテーマの一つには「SAVE FOOD」があります。世界では30%の食品が食べられることなく無駄に廃棄されている、所謂「フードロス」が問題となっていますが、これを撲滅する目的とする国連主導の組織が SAVE FOOD initiative で、ここにInterpackもメンバーとして参加し、包装技術という側面から貢献すべく様々な活動を行っています。例えばフードロスを減少させる取り組みに対するアワードで、今回はパッケージの中で果物などから放出される熟成ガス(果物を熟させる効果のあるガス)を、特殊な吸収材を同梱することで消費期限を大幅に伸ばすことを可能とした技術に対して賞が贈られました。
しかしなんといっても、メインのテーマはやはり「デジタル化、インダストリー4.0、サステナビリティ」でした。包装は生産工程の一部であり、更に生産と流通の境目にある工程でもあり、インダストリー4.0では特別に重要な意味をもっているため、メインテーマになるのは自然なことです。これらのキーワードは今更ながらと思えるほど、言葉としては日本にも浸透しているように思えますが、実際のところは表面的な理解に留まっているように感じます。ドイツが主導するインダストリー4.0ですが、そのドイツの印刷機械メーカーが力を失いつつある中で、日本の印刷業界・印刷機器業界全体も、今一つその流れに乗り切れていないように思えます。
印刷業界はワークフローやJDFなどという形で、単品の機器のパフォーマンスを超えて、全体を繋ぎ作業の流れを効率化するという動きは比較的早い段階から取り組みが進められてきたと理解していますが、ロボット・クラウド・センシング技術・ビッグデータなどの最新の技術を取り入れたインダストリー4.0の概念の前には、既に時代遅れになってしまってはいないのか?次回のDRUPAは「インダストリー4.0DRUPA」になるだろうとも言われている中で、自社のコンセプトをいかにそれと関連付けるか?これは表面的理解でお茶を濁してきた日本メーカーが、残り3年の中で答えを出していくべき課題と考えます。ということは、着手は「今でしょ!」(笑)
さて、いよいよ会場に向かいますが、DRUPAであれば路面電車からエスカレーターを上がった左手のHall8のAとBにまず行って、ゼロックス+富士フィルム、キャノン、リコー、コニカミノルタ、XEIKON、AGFAなどデジタル印刷機器の大所を押さえて、HP、小森、ハイデルベルグ、スクリーン、ランダなど印刷機器業界老舗や話題企業が点在するメインのフィールドに向かうという作戦が通じません。印刷関連機器メーカーが殆ど出てないのです。
DRUPA、PRINT、IGAS,ChinaPrintなどと違って、包装業界の展示会Interpackや、壁紙や内装業界の展示会Heimtextilなどにおいては、プリント技法は永年にわたってグラビアかスクリーンにほぼ決まっていたので、それら成熟したプリント機器をことさら取り上げてフォーカスすることはなかったという事情があると思われます。
このリストにある45企業(5列x9行=45社)はガイドブックのトップページに広告を出すことから察するに、包装業界ではそこそこ存在感のある企業群と思いますが、小生がインクジェット業界の知識から辛うじて知っているのはたった4社のみです。4列4行のKBA(これはDRUPAにも出てますからね)、4列9行のVIDEOJET(DANAHER傘下でコーディング&マーキングの大手)、2列4行のKHS(コカ・コーラなどのボトリング設備の大手で、瓶や缶にインクジェットでダイレクトプリントを実現している)、1列2行のCOESIA(いくつかの包装機器メーカー群を傘下に持つ持株会社。傘下にはインクジェットで医薬品業界のパッケージプリントを手掛けるスイスのHAPAがある)だけです。
要は、なにやら疎外感があるのです。デジタルプリントの方面からは「オフィスの飽和」、「商業印刷のデジタルドキュメントシフト」・・・「従って今後期待できるのは、少なくとも人口比例で需要が増加するパッケージ印刷」とか言いながら、そのプレーヤー達の姿が見えない。Hall13に辿り着いて、ようやく少しは知っているメーカーがいてホッとするけれど、その他のホールではいったいどこに着目していいものやら・・・。でも、これが包装業界における印刷の、今日の位置づけであるというのが事実です。主役ではないのです、少なくとも今回までは・・・
「報告書 Interpack(2)HP」として別途報告しますが、今回のInterpackでデジタル印刷機器系では最大のスペースを持ち、圧倒的な存在感を示していたHPでさえ、実はそのスペースはDRUPAに比べるとかなり小さく、また広告も出していません。今回、デジタル印刷機器メーカーは概ねHall13に集められていましたが、その中でのHPのスペースはラフに見て3~5%くらいなもので、Hall17を独占したDRUPA2016と比べると、その時の十分の一にも達しない規模です。
HPでさえこうですから。他社は推して知るべし。それでもまだブースを出していたところは、それなりの意図もあり、結果は的外れだったにせよ、次回2020年に向けてなんらか学ぶことはあったはず。「次に期待できるのは人口比例で需要が増加するパッケージ印刷」とか言いながら、ここにブースも出さず、幹部が視察にも来ないようなメーカー達は、実際のところパッケージの世界にどうアプローチするつもりなのでしょうか?2020年はDRUPAとInterpackが同年開催されます。そこにどのようなスタンスで臨むつもりなのでしょうか?
一方でInterpackサイドにも課題はあると思われます。印刷技術が従来の包材印刷で主流だったグラビアやスクリーン、あるいはカートンへの印刷ではフレキソ、一部はオフセットなどからデジタルにシフトしつつある状況を正しくは認識してはいないのではないか?実はInterpackのメインテーマであったインダストリー4.0に最も親和性のあるプリント技術はデジタルであることに目が行っていないのではないか?そんな風に思えます。
HPを例外として、「次はパッケージ印刷!」と叫び、紙器や軟包材のプリントサンプルをDRUPAで並べながらInterpackにはブースも出さず幹部の視察もないデジタル印刷機器メーカー、デジタルがなにやら面白いことをやっていそうだなとは思いつつ、そんなカスタマイズや小ロットなんて主流の仕事ではないだろうとそこにスポットを(これまでは)当てていないInterpack、そのInterpackが本気でそれに気が付いて、例えば「Hall13をデジタル印刷の集中ホールとする!来たれ世界のデジタル印刷機器メーカーよ!共にインダストリー4.0の流れの中で産業革命を起こそう!」と言い出して皆がそれに靡いてしまわないかヒヤヒヤしているDRUPA・・・そんな構図が見えます。
DRUPAのブース申し込み期限は通常は開催の1.5年前、2018年の秋。Interpackも似たような時期と推察されます。その前に展示会開催者としては「スペースの販売戦略」を立てて有力出展者候補、従来からの出展者にアプローチを始める段取りです。すなわち、開催は2020年とはいっても、もう近々に主催者サイドとのすり合わせと出展者サイド態度決定がなされるべきタイミングとなります。態度決定までに残された時間はそう多くはありません。
パッケージ印刷に関心がないならともかく、なんらか関心を持つなら、こういう背景と流れを意識して、部下や現場にいたづらに情報収集と提案を求めるのではなく、経営者・経営幹部自らが動いてInterpackにアクティブに接触したり、インダストリー4.0の実質的な勉強と自社のかかわりを考えたり、自らリーダーシップを発揮して決断をしていくことを期待する次第です。
そうでないと、またこのメーカーの後塵を拝することになりますよ(笑)
著者紹介
OIJC(Ohno Inkjet Consulting:大野インクジェットコンサルティング) 代表 大野彰得(おおのあきよし)