インターパック2017 視察レポート「大野」 No.3

展示会報告 Interpack – HP以外の出展者

Interpackは3年に一度、ドイツのデユッセルドルフで開催される世界最大の(と言っても差し支えないかと思います)パッケージ関連産業の総合展示会で、今年は5月4日から10日までの日程でした。デジタルプリント機器のメーカーが多く出展していましたが、特別な存在感のあるHPに関しては「展示会報告 Interpack(2)HP」として別報告としますので、ここではHP以外のデジタル印刷関連の出展者についてレポートします。かなり精力的に回ったつもりですが、すべてをカバーできるわけではないので、これを読まれている方で「あれ、うちは無いの?」と思われる向きがおられましたらご容赦下さい

これは友人である某米国人コンサルタントの訪問先リストですが、まあこの程度です。これを見てもDRUPAとは様相が違うことは容易にわかります。各社とも今回はまだ様子見の段階と思われ、DRUPAに持ち込んだ大型の機器(富士フィルムのJetPress720やefiのNOZOMIなど)は持ち込まず、プリント物の展示が主体でした。

考えてみれば、包材への印刷は包装産業のごく一部、言い切ってしまえば下請けでInterpackの中でも未だ積極的な位置づけがなされていない分野。そこに巨大なスペースを借り、巨大なデジタル印刷機を展示してどのくらいの集客が見込めるのか、どのくらいの(費用対)効果があるのかは現段階では見えていないのは事実です。ただしこれは今から2020年まで黙って待っていても見えるものでもありません。

メーカーサイドからもInterpackに対して「効果的な展示会にするためにInterpackとしてはどういうコンセプトで、どういうサポートをしてくれるのか?」という問いかけ、Interpackサイドからも「デジタルプリントが包装業界にどのような変革をもたらすのか?どういう貢献があるのか?」という問いかけをし、相互に対話をして効果的な展示会を共に作っていくという作業が必要かと思います。

私が議論をリードできるなら「インダストリー4.0の流れを踏まえ、従来のアナログ印刷ではなく、デジタル印刷がその中で重要なピースとなることで、包装産業にこのような変革をもたらす」というテーマを立て、Hall17は丸ごと「デジタル印刷とインダストリー4.0と包装の革命」の専門とし、メーカーにもそれに沿った展示を求める・・・そんな風に進めていきたいと考えます。こういう積極的な相互の対話なく、方向性のすり合わせもなく、DRUPA2016でやったように、紙器やカートン目的のデジタル印刷機を設置し、ただ包材を模した成果物を並べるだけでは大した成果は得られないでしょう。メーカーサイトとInterpackの双方に相互の対話の発話を期待したいところです。また、それに早く着手したメーカーのみが、Interpackの趣旨に沿ったより明確な出展企画を実行でき、より多くの成果を得ることになるでしょう。

誰がそれをやるのか?担当者や現場、現地ではないことは明白です。

以下、出展者の状況を順不同に書き記していきます。

富士フィルム

インクジェット事業部 相原副事業部長と展示物

HPを除けば富士フィルムは最も広いブースを持ち、JetPress720こそ置いていなかったものの、ワイドフォーマット機やサンバヘッド搭載のラベルプリンタ(試作機?)、包材の各種サンプルを並べて形を作っていた。視察者も事業部長格や、買収した欧州系インク会社の幹部などが来ており、次回に向けての経験値を蓄積したと思われます。DIMATIXに関してはラインヘッドを展示するに留まりましたが、もともとヘッドの性能を誇示しても、この業界ではさほど意味を持たないと考えられるので、それでいいのではないでしょうか。

展示物では、特に金属光沢をインクジェットで実現したラベルに、開発者を説明員として配置して重点的に強調していました。




Heidelberg・efi・LANDA

対照的にやや拍子抜けだったのは、DRUPA2016では広大なブースを持ち、パッケージング方面への進出をアピールしていたHeidelbergやefi、LANDAです。

いずれもプリンタの展示はなく、極端に小さいブース或いは他社ブースの一角を借りただけのもので、ひっそりと人だかりもなく、アンテナになるかどうかも疑問な状況でした。

efi 店番は2人だけ 閑散

傘下のフレキソ印刷機メーカーGallusも実物展示は無し

Heidelberg ブースは他社の間借り
LANDAは巨額の出資(100Mil€)を投資したALTANAグループの一角にひっそりと・・・説明員もなし

KonicaMinolta


もっと拍子抜けだったのは前職のコニカミノルタ。オフィシャルガイドブックにも掲載されているのに、その場所に行ってみたらブースが無かったのです。ドタキャンしたとのこと。DRUPAでKM-Cという包材印刷にフォーカスした大型IJ機を展示し、この業界への参入の意志を見せたのに・・・残念!

XEIKON

実機展示で紙器をアピール

理想科学

理想科学のORPHIS出展は意外な感じはあるが・・・パッキングリストや開梱マニュアルなどにフォーカス

ちょっと意外だったのは理想科学。HPのブースの横にあり目立たない反面、HPの集客の流れを利用できた側面もあるのではないでしょうか?

包材そのものへの印刷ではなく、梱包には付き物の「パッキングリスト」、「送り状」、「開梱マニュアル」などのドキュメント類。確かに高画質は不要で、小ロットになれば無版オンデマンドの需要は確実に増える。高画質電子写真メーカーとは一線を画した発想で、面白いマーケットを開拓できるかもしれません。

かつてオリンパスは電子写真の一種である「イオンプリンター」というのを商品化しており、このプリンタが例えば新聞の発送現場で、どこの駅の売店に配送するのかという指示書をプリントするというような用途にかなり使われていました。オリンパスからORPHIS事業の譲渡を受けた理想科学は、その経験値を引き継いだのかも知れません。

DOMINO・DANAHER・DOVER・日立・紀州技研・・コーディング&マーキング

包材そのものの印刷ではなく、製造工程の最終段階で、バーコード・ロットナンバー・製造年月日・賞味期限などを追加でプリントする「コーディング&マーキング」あるいはプロダクトアイデンティフィケーションという分野がありますが、ここでは所謂「3D」(三次元の意味ではなく)、すなわちDover(その傘下のMarkem Imaje)、Danaher(その傘下のVideoJet)、Dominoの3社が世界の8割以上のシェアを占めるといわれますが、他にも日系メーカーでは日立産機システム・キーエンス・紀州技研などが存在します。

技術はインクの飛距離でドロップ・オンデマンド方式に対して有利なコンティニュアス・インクジェット、及びレーザー刻印方式が用いられます。近年、高精細な二次元バーコードや医薬品アンプルに張り付ける小型高精細なバーコードのプリントにドロップ・オンデマンド方式のインクジェットが採用され始め、スイスのHAPAやドイツのアトランティック・ザイサーなど多くのメーカーが参入しています。

DOMINOのブース
元XAARのインク技術者 Jinn Wood 女史

DOMINOは3Dの中では最も広いブースを確保していました。ご存知のように、ブラザー工業が当時のレートで1,800億円を投じて買収し上場を廃止して完全子会社化したわけですが、ブラザー色は一切感じられないブースづくりで、展示されていた商品群も、伝統的なコンティニュアス方式IJのプリンタと、ブラザーが買収する前から存在していた京セラヘッド搭載のラベルプリンタ(N610)のみ。「ブラザーとのコラボで何か開発しているのか?」と突っ込んでも「知らない」「言えない」と、まあ当然の答えが返ってきただけでした。日本人の姿は見当たらず、ブラザーのロゴさえ見当たらず、PMI(Post Merger Integration)の難しさを垣間見た感じです。

Danaher傘下の各企業

Danaherは北米ベースのコングロマリットで買収によって成長し、現在はざっくりと一兆円の事業規模です。もともと「ファクトリー・オートメーション」を一つの注力分野として工場のメンテナンス部品などのメーカーを買収していましたが、近年は包装やプロダクト・アイデンティフィケーションにクリアにフォーカスしESKO、PANTONEやVideoJetを含むコンティニュアス方式のIJメーカーを積極的に買収し、相互の連携を促進しています


DOVERもDanaherと似たようなコングロマリットで、近年テキスタイルのオンデマンド・プリント関連企業を買収を繰り返し話題を集めています。

今回は出遅れたのか、もともとそういう位置づけなのか、Hallではなくゲレンデの小屋にスペースを持ち、積極的に集客をしている様子はありません。

COESIA(HAPA)

www.coesia.com



COESIAはイタリアの持株会社で、おそらくDanaherなどと同じく、ある分野に焦点を定めて買収し、統合し、相乗効果を出してパフォーマンスをあげていくタイプの投資会社と思われます。

HAPAは Hendel mit Patent ということで、スイスのチューリヒ大学が有するパテントを事業化する集団でしたが、医薬品業界のパッケージ印刷にフォーカスし、ブリスターケースのアルミ箔に各国の薬事法で定められた内容をプリントするプリンタや、ブリスタ―ケースを纏めて入れる集合梱包紙器をオンデマンドでプリントするといったIJ機器を開発、それがCOESIAに買収されたという経緯です。

業界大手

スイスの包材関連機器の大手 BOBST
DRUPAでは巨大なブースを持っていたが、ここでは何故かこぢんまり・・・

BOSCHといえば自動車部品の大手という印象だが
包装機械の分野でも主要なプレーヤーらしい

最後に・・・重要な内緒話


これは日本フォーム工連専務理事の山口実様のfacebookから借用させて頂いた教訓集です。どの一つを取り上げても「まさにその通り!」と深く頷くことばかりですが、特に下から2番目の項目「新規事業を従来事業に統合させるな!」・・・この失敗を、日本企業は何度繰り返せばその愚に気が付くのでしょうか?

新規事業に従来事業とのシナジーを求めるのは理にかなっているように見えて、実は殆どの場合は幻想にすぎません。新規事業は、コンパクトな組織で、その組織長が自ら業界を走り回り、競合も含めて人脈を形成し、自ら情報を収集し、それが真なのかどうかを判断する肌感覚を磨き、意思決定は面倒な手続きを踏まず、自らの責任で即決する・・・そうでなければ立ち上がるものも立ち上がりません。

「上に諮ってから・・・」という言葉が出た瞬間、終わりと判断していいでしょう。従来事業から来た「上」なる人物は、一般に自分で判断する経験も肌感覚も権限もないのが「日本企業の普通」だからです。こういう「上」はやたら情報を「下」に要求します。なぜなら、その「上」には更に上に、新規にはド素人集団の「役員会」があり、従来事業から来た「上」はそこにから説明を求められるからなのです。素人の重層構造です。

新規事業を従来事業に組み込んだ・統合した企業に先はない!山口様が自らの経験から発せられたこの警句!新規事業に真剣に関わったものなら誰しもが納得するこの警句!いつになったら日本企業はそれに気が付くのでしょうか?

さて、ここで重要な秘密の話があります。

これは、それに関与する人物から「7月頃にプレス発表があるはずなので、それまでは内緒にしてくれ」という条件で聞き込んだものなので、ここでは具体的な開示はできません。が、概ね下記のような話です。

DRUPA2016は「パッケージングDRUPA」と称されたように、パッケージ印刷に関していくつかの大型提携が発表されたことは記憶に新しいかと思います。そのうちの一つ(ひょっとしたら全てかもしれませんが・・)は既に破綻したそうなのです。

しかし、そこの経営者が気が付いたのは「新規事業なのに、従来の取り組みではダメなのに、うっかり従来事業をやっていた連中にこのプロジェクトを任せてしまった!これは自分の失敗だ!」と反省して、ここで大きくそのプロジェクトを編成しなおすとのことです。プロジェクトリーダーは勿論、今回は社内の従来事業の生え抜きからは選びません。全く違う人物を採用するようです。かなり大胆なM&Aも行って、違うやり方をするとのことです。

日本企業に何故これが出来ないのでしょうか?何故、新規事業を従来事業に統合したり、そうでなくとも新規事業の責任者に従来事業から横滑った(エースではありません、エースは従来事業が離しませんから)人材を充てたりする愚から逃れられないのでしょうか?

これが明らかになるのは7月ごろと聞き及びました。でもブラザー工業が1,800億円でDOMINOを買収する!というような華々しいものではなく、ひっそりとした発表になるのではないかと予想します。華々しく発表して株価を上げようなんて考えていないと思われるからです。それでも発表があった時、わかる人には「あ、そういうことだったのか」と理解されることでしょう。

従来事業出身で、部下や現場に(更に上に報告するための)情報を取れ!と指示している「上」には、この発表が持つ意味を理解できず、おそらく見逃してしまうことでしょう。

DRUPAとInterpackが12年ぶりに同年開催となる2020年に向けて、いろいろな動きが加速していきます。日本企業群の健闘を祈るばかりです

(おまけ:東京大学 西田健太郎氏のfacebook より)

著者紹介
OIJC(Ohno Inkjet Consulting:大野インクジェットコンサルティング)  
代表 大野彰得(おおのあきよし)

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