Sunrise 2027とサプライチェーンの再編 :ラベル印刷はどこへ向かうのか②読み取り品質を軸に変わる日本のラベル印刷とサプライチェーン

Sunrise 2027とサプライチェーンの再編──ラベル印刷はどこへ向かうのか第2回。
Sunrise 2027 の議論は、海外の大手メーカーが主導する取り組みに見えがちだ。しかし実際には、日本でもすでに複数の領域で2次元コードを前提とした運用が動き始めている。POSの更新、PB商品の2次元コード化、期限管理の実証──こうした変化は確実に広がりつつある。これは印刷物にも波及しつつある。とくにパッケージとラベルは、2次元コードを前提とした運用に合わせて、これまでの前提を見直す必要が出てきた領域である。それぞれが担ってきた役割が異なるだけに、求められる変化の方向も同じではない。

日本で見え始めた全体の動き

2次元コードへの移行は、海外規制への対応や表示ルールの更新といった表層的な要因への対応にとどまらず、日本の流通が長年抱えてきた“情報の分断”を見直す契機になっているといえよう。実際、日本の流通では、小売・メーカー・行政の複数領域で情報基盤の再構築が現在進行形で進んでいる。
具体的な動きとしては、小売領域では、POS の更新において 2次元コード対応が進んでおり、NECでも新しいPOS端末が発表されるなど、店頭での読み取り環境を整備する動きが広がっている。メーカー側でも同様に、PB商品を中心に2次元コード活用が進んでおり、イオンはトップバリュ商品での2次元コード活用を公式に発表し、セブン&アイもセブンプレミアムにおける2Dコードの実証を公表している。
行政・標準化の領域でも、食品表示のデジタル化に関する消費者庁の「スマートラベル」方針や、経済産業省による流通・物流のデジタル化方針が公開されており、情報提供の在り方をデジタル前提で再構築する方向性が示されている。また GS1 Japan も、国内の2次元コード導入方針や実証事例を「2D in Retail」として整理しており、小売・メーカー・物流を横断した情報基盤の整備が進んでいることがわかる。流通では大手の動きが全体に波及しやすい傾向がある。このような大手の動きは、2次元コードへの移行へ向けた起爆剤となりうるだろう。

ラベル印刷の再定義

商品情報の扱い方が変われば、ラベルの役割も変わる。こと日本においては、ラベルは識別や表示、法令対応を中心に発展してきたが、2次元コードの活用が進むことで、ラベルは単なる表示媒体から、サプライチェーンにおけるデジタルとアナログの接続点へと移行していく。ここでは、ラベル印刷の変化を主要ないくつかの論点から整理する。

ユニークコードが一般化する未来

2次元コードの移行によって何が起こるのか。GS1サンライズにおける一番のポイントは、すべてのサプライチェーンにおける個体単位での識別と追跡を前提とした運用の実現だ。
これは、ユニークコードが現在のように医薬品など特定領域に限られたものではなく、食品、日用品、雑貨、小売店舗など、あらゆる領域で一般化していくことを意味する。
このような未来がどのように運用されるのか――その一端は、GS1が示す実際のデータ処理フローから垣間見ることができる。

Example of a GS1 Barcode Syntax Resource solution
この図は、GS1の要素文字列をもとに生成されたバーコードが、スキャンされ、各システムでどのように活用されるかを示している。こうした仕組みが現場に実装されると、業務そのものの姿が大きく変わり始める。
小売の現場では、値引き・期限管理・リコール対応が自動化へ向かう。 物流では、入荷・検品・棚入れ・ピッキングといった、これまで目視と経験に依存していた工程が、データを前提とした運用へと置き換わっていく。 モバイルアプリでは、消費者が製品情報を即座に取得できるようになるだろう。こうした変化が積み重なることで、サプライチェーン全体は、ラベルを“データのハブ”として機能させながら、分断された工程の集合から、連続したデータの流れへと姿を変えていく。 個体単位での追跡が可能になることで、トレサビリティの精度も飛躍的に高まる。
では、このような「未来」はいつ訪れるのか。これは遠い将来の話ではない。GS1 Global は「Ambition 2027」において次の国際目標を掲げている。

By the end of 2027, all retail POS systems should be able to scan and process GS1 2D barcodes.
2027 年末までに、すべての小売 POS が GS1 2D バーコードを読み取り処理できるようにする
https://www.gs1.org/industries/retail/solution-provider-2d-readiness

この目標が達成されることは、ユニークコードを前提とした運用へ移行するための基盤が整うことを意味する。これがラベル印刷にとっての転換点となることは間違いない。もっとも、これはあくまで“目標が達成されれば”という前提に立った話であり、基盤が整うことと、すべての領域で一斉に運用が切り替わることは同義ではない。小売の規模やシステム更新のタイミング、商品構成や運用方針の違いによって温度差は避けられず、当面は従来の運用と、2次元コードを前提とした新しい運用が併存する段階的な移行が続くだろう。

ラベルは読み取り品質の時代へ

では、ラベル印刷会社のビジネスはどのように変わるのか。結論から述べるとすれば、ラベルの読み取り品質をいかに担保できるかが今以上に重視されることとなるだろう。
すでに2次元コードの活用が進む欧州では、ラベル印刷会社の多くが、印刷やデザインだけでなく、印刷可能性の事前検証、包材との適合性確認、バーコード品質の成立性確認といったサービスを前面に掲げるなど、レイアウト設計の初期段階から関与することが一般的であることがうかがえる。GS1 Europeでも “Design for printability must be considered early in the packaging design process.” と明記し、初期段階からの印刷可能性の考慮を促している。このような、レイアウト設計の初期段階からの関与は、読み取り性能を中心に考えた場合、非常に合理的な流れだ。
GS1 DataMatrixのような2次元コードは情報量が多く、情報量が増えるほど読み取りはシビアになり、印刷のわずかな変動が読み取り性能に直結する。そのため、レイアウト上の余白(コード周囲の保護領域)や最小セルサイズ、形状、配置、精度、耐久性など、印刷技術の観点からあらゆる面を考慮し、ラベルを最適化する必要がある。そしてこれは、ラベル印刷会社にしかできない重要な仕事だ。

検査体制×印刷品質

読み取り品質をいかに担保するか。前節のような設計段階での印刷可能性の検証はもとより、印刷品質の安定化と検証機による品質評価も高度化する。GS1は GS1_DataMatrix_Guidelineの中で、“Verification according to ISO/IEC 15415 is required to ensure consistent performance.”、安定した読み取り性能のために ISO/IEC 15415 に基づく検証が必要である、としている。ISO/IEC 15415では、シンボルコントラストや変位幅、反射マージンなどを評価のパラメータとしているが、1次元コードで前提とされてきた ISO 15416と違い、ISO 15415は 評価項目が多く、より厳格になっている。世界的なコード検査・認識技術のリーディングカンパニーである、Cognexでは、印刷品質の劣化がコードの可読性を低下させることを明確に示しており、読み取り性能が印刷品質に依存する前提のもと、劣化をリアルタイムで検知するプロセス管理を推奨している。

Process metrics provide early indication of decreasing code readability so that corrective actions can be taken (e.g., print head may need to be replaced).
印刷品質の劣化はコードの可読性を低下させるため、早期検知と補正が必要:https://www.cognex.com/industries/consumer-products/packaging/print-inspection

こうしたリアルタイムでの劣化検知や工程管理は、これまで医薬品など高度な品質管理が求められる分野で先行してきた取り組みと捉えられがちだった。しかし、2次元コードが一般化し、製品単位での識別やトレサビリティが広がるほど、読み取り品質を確実に担保するための検査体制は、より多くの業種・現場で求められるようになる。読み取り品質を確実に保証するには、設計から印刷、検証までをデジタルでつなぎ、工程全体を可視化・制御する仕組みが不可欠となる。ラベル印刷会社にとって DX化は、品質保証の前提条件になっていくだろう。

品質要件が導くハイブリッド印刷の合理性

印刷方式をどう捉えるか。これまでデジタル印刷は「小ロット向け」というイメージが強かったが、2次元コードが一般化し、製品単位での識別や可変情報の付与が前提になると、その位置づけは変わる。2D Barcodes at Retail Point-of-Sale Implementation Guidelineでは、印刷方式ごとの特性と注意点が整理されているが、重要なのは、それぞれの方式が持つ特性をどう管理し、安定した品質を確保するかである。2 次元コードが求める品質要件は、印刷方式の選択を「生産量」や「ロット規模」ではなく、「可変情報の扱いやすさ」「工程の制御性」「品質の再現性」といった観点から再定義していくことになる。こうした印刷方式の再定義は、ハイブリッド印刷の価値を改めて見直すきっかけにもなっている。
ハイブリッド印刷は、これまで主にコスト効率の文脈で語られてきた。固定デザインや変化しない識別情報など、あらかじめ印刷しておく内容は工程を分離でき、可変情報はデジタルで後から付与するほうが運用上の柔軟性とコスト効率の面でも合理的とされてきた。
ユニークコードが前提となる現在、ハイブリッド印刷はこれまで以上に明確な意味を持つようになっている。従来の運用の柔軟性やコスト効率に加え、ユニークコード時代には品質要件の面でもメリットを発揮するようになったためである。GS1 は次のように述べている。

Pre-printed symbols generally offer more consistent quality, provided that plate and substrate conditions are controlled.
版と素材が管理されていれば、先に刷る工程で扱うシンボルは品質が安定しやすい。:https://www.gs1.org/docs/barcodes/GS1_DataMatrix_Guideline.pdf

品質の安定が求められる“変化しない識別情報”には、GTIN や企業識別番号(GS1 Company Prefix)、JAN/EAN のような固定値で構成されるバーコード、ブランドロゴや恒常的な表示内容などが含まれる。これらは読み取り精度の基盤となるため、一定の品質基準を継続的に満たすことが求められる。
固定値の情報はアナログでのプレ印刷で安定品質を確保し、可変情報はデジタルで柔軟に付与する。 この分業は、コスト効率だけでなく、ユニークコード時代の品質要件にも適合する合理的な選択肢となるだろう。
ただ一方で、ハイブリッドはアナログ側で固定情報を大量に刷ることでコストを最適化し、その上にデジタルで可変情報を載せる、つまりは、大ロットで固定データが一定以上あることを前提としている。こうした前提が成り立たない領域──高度なトレサビリティや、市場投入の迅速化が求められる領域では、デジタル印刷の柔軟性と即応性は大きな価値となるだろう。――次回は、次世代QRコード(GS1 Digital Link URI方式)を切り口にデジタル印刷活用の可能性を取り上げる。

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