かくして新しい印刷の市場が、デジタルマーケティングを取り込むことにより、桁外れの規模で開こうとしている。
印刷が満たさねばならぬ要件
ただし要件がある。待っていても何も起きない。その新しい世代の印刷物は、デジタル・メッセージが持ち合わせている下記を満たさねばならない:
- 「顧客を追いかける追跡性」
- 「顧客の動きに応える応対性」
- 「顧客の動きに合わせた即時性」
- 「低コスト」
そう。印刷はこれらを身にまとわねばならない。「追跡性」と「応対性」は必須項目である。顧客に応答して「関連性」を持たせた紙面で追いかけて、顧客体験を成立させねばならない。「即時性」と「低コスト」には最善を尽くし、その費用と時間に相応しい「効果」をあげなければならない。昔とは違って必要なデータは既に顧客、あるいはデジタルマーケターが保持している。
これでようやく進撃の準備はととのったのであろうか?
当然だがこれらの条件は既にデジタル・メッセージでは実現されている。それを印刷で実現することは必要であるが、十分なのであろうか? もう一つ考えなければならないことがある。顧客体験全体の中で、どうしても印刷が果たさねばならぬ役割、印刷でなければならない機能とは何であろうか?
変化する印刷の目的
ここでの印刷の役割の変化を認識したい。
カタログの組版の目的は「限られた紙面上で必要な情報を網羅し、顧客が購入を完結できる」という事に重きが置かれていた。そういった意味ではカタログのデザインも、帳票、フォーム類の設計も変わらない。必要な情報を全て盛り込み、読者に分かりやすく、漏れなく、間違いなく記入でき、目的を完結できるようにするのが至上命題であった。
前述のディノス・セシールの石川CECOのコメントを思い出して頂きたい。
「紙のカタログの制作は、印刷と組版を熟知した上での深いノウハウの固まりで、EC専業社にはとても無理です。」
カタログの制作において、組版の至上命題は「情報の網羅と閲覧性の両立」であり、印刷の命題は「短期間かつ低コストでの量産」であった。その為に大いに技術を磨き、積み上げてきたのだ。通販カタログだけに限らない。旅行カタログも高度な組版技術が支えている。プロが作る印刷物は、そうでなければならないのだ。引き続きディノス・セシール様の例で恐縮であるが、こちらのカタログをご覧いただきたい。
見栄えのする商品写真を中心に、商品番号、選択できる図表、文字の配置等に細心の注意を払い、必要な情報を網羅して読者に閲覧してもらえるべく美しく組版されている。読者はこのページを見ながら、注文書を記入する事も出来るし、そのまま電話をかけてオペレーターさんに注文することもできる。完璧である。組版と印刷のプロの仕事であって、デジタル世界の人々が簡単に模倣できるようなものではない。
(続く)
著者プロフィール
社団法人PODi 代表理事 亀井雅彦(かめいまさひこ) デジタル印刷活用をテーマに、印刷機メーカーや印刷会社に対して、人材の育成および教育・コンサルティングサービスや各種普及啓発活動、イベント、セミナーの開催を実施。 |