デジタル化の激震
前回、印刷だけではデータの世界を揺るがす力はなかった、と述べた。しかしデジタルは違った。ECサイトは検索を駆使して便利性を向上させることにより、「買う物」が決まっている顧客を奪取することに成功し始めた。人々は検索の便利さに狂喜乱舞し、あらゆるものを検索した。2007年以降、懐の中のスマホはWebと繋がり、かつソーシャルと接続されているようになった。いつでも、どこでも検索は可能となり、ソーシャルで発信も出来るようになったのだ。そしてあらゆるWebでの行動は、データとなったのだ。
データを得たECサイトは、顧客の追跡を始めた。買ってくれたらサンキューとメール送り、買ってくれなかったら追跡する。オンラインであれば、即時に対応できる。ちょっと買おうと思って籠に入れれば、たちまち分かる。買えばサンキュウ、買わねば追いかけ、である。対応する内容はまさに顧客の行為への応対(レスポンス)であって、コミュニケーションでもある。これを「リターゲティング」と呼ぶ。
やっていることは特に大袈裟なことではない。デジタル印刷でパーソナライズしたダイレクトメールで実現しようとしていた「ダイレクトマーケティング」を、オンラインで実現できるというだけだ。ただし顧客が実際に検索や他の何らかの行為を行った内容を理解して応対(レスポンス)すること、それが即時(リアルタイム)に実現できるという点で画期的であった。スマホの驚異的な普及とあいまって、デジタルマーケティングは桁外れに急成長していく。デジタルであるから当たり前ながら全てはデータ化され、ビッグになっている。そして印刷はそれに逆張りされたように市場を失って行くのだ。
米国1人当たり商業印刷出荷額 WhatTheyThink?
かくしてマーケティングは、顧客の残したデータに基づいて、よりダイレクトに、よりターゲットに関連付けられて、リアルタイムになっていく。理想的な顧客体験が設定され、どんどん自動化されていく。カスタマージャーニーとかマーケティングオートメーションとか、IT屋連中は昔から名前の付け方と、素人さんへの脅迫は超一流だ。投資に対する効果は逐一測定され、まとめられてクライアントも大満足である。AIのお陰でいずれは人間も要らなくなる。メデタシ、メデタシ、とはなるのであろうか? Webで始まり、Webで完結するECのビジネスモデルによって、印刷は葬り去られるのであろうか?
(続く)
著者プロフィール
社団法人PODi 代表理事 亀井雅彦(かめいまさひこ) デジタル印刷活用をテーマに、印刷機メーカーや印刷会社に対して、人材の育成および教育・コンサルティングサービスや各種普及啓発活動、イベント、セミナーの開催を実施。 |