連載:徒然なり オンデマンド (3)

かつては「ビッグなデータ」は存在しなかった。ビッグどころか、そもそもデータへのアクセスなどは思いもよらなかったのだ。
私が、フルカラー、バリアブル印刷を引っ提げてダイレクトメールの市場を目指したのは2003年羊年からであった。 顧客毎に写真を、あるいは絵柄を刷り分けて印刷できる夢のシステムは、この頃各社から市場に投入された。

コニカ8050 フルカラーバリアブル印刷システム

まずは平均70枚の極小ロットである個人向け年賀状印刷をこのシステムをターゲットとした。従来の年賀状印刷は、まずは四丁付いた官製年賀状にオフセットで絵柄を刷り、それを断裁して棚に収めて注文を待つ。注文が来ると、指定の絵柄の刷り置き台紙を棚から出し、差出人の住所氏名を組版してモノクロのオフセットで追い刷りをする、というものであった。10月から12月までの勝負。短期間に注文は殺到し、限られた職人がオフセットを回す現場は凄惨を極めることになる。まずはモノクロの追い刷りをデジタル化した。普通紙にはない葉書特有の印刷課題が付きまとう。これを振り払うのに2年掛ったが、これによってフルカラー化が可能となった。フルカラーのオンデマンド機であれば、当然ながらモノクロ同様の差出人住所氏名はもちろん、絵柄も同時に印刷できる。年賀状印刷会社の巨大な棚に収まっていた無数の絵柄別の刷り置き台紙を一掃し、白紙のお年玉付き年賀状からワンパスで印刷するというワークフローの革新を起こした。絵柄の追加印刷も廃棄も撲滅された。 年賀の現場はアルバイトに任せ、オフセットの職人は通年業務に戻れたのだ。残っているアナログは箔だけであろう。
加えて準備したWeb To Printのシステムが、年賀状印刷の販売を手掛ける流通グループ、特にコンビニチェーンに軒並に採用されその地位を不動にした。

意気揚々とさらに大きな「筈」の、フルカラーでバリアブルのダイレクトメール市場をターゲットとした。もちろん予定通りだ。このマーケットに参入するために、バリアブル印刷ソフトを準備した。文字と組版に最も精通した株式会社モリサワに頼んで開発して頂き、VDPI(Variable Data Print & Impostion)と名付けて販売を開始した。モリサワもMORSAWA VARIABLE PRINT(MVP)として販売を開始して、その後も改善を続け、現在はバージョン7として販売されている。

VDPI 可変印刷ソフトウェア

ターゲットの市場は見えている。絞り込んだ顧客を狙い撃ちする小規模ダイレクトメールだ。市場は無限に生まれるはず。葉書のオンデマンド印刷の手応えはある。ソフトも揃った。いざ出陣の銅鑼が鳴り響く筈であった。しかし実際にはこれは困難を極めた。

(続く)

著者プロフィール
社団法人PODi 代表理事 亀井雅彦(かめいまさひこ)
デジタル印刷活用をテーマに、印刷機メーカーや印刷会社に対して、人材の育成および教育・コンサルティングサービスや各種普及啓発活動、イベント、セミナーの開催を実施。

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