drupa2024の話題を見聞きするようになった。新型コロナで前回はオンラインの‘virtual.drupa 2021’となったが、リアル展示会となると2016年以来8年ぶりである。以前は’十年一昔‘と言われたが今は’五年‘が良いところだろう。途中コロナ禍もあり全く時代が変わってしまったというのが実感で、drupa2024もどうなるのか良く読めないというのが正直なところかもしれない。
幸い今年の国内印刷関連展示会の出足は悪くないようなので盛り上がりを期待してしまう。もっとも国内の旅行需要が大活況であるように、長らく籠の鳥で鬱々としていた人々が外に出たいという心情・行動の現れでもあろうから、来年の展示会がどうなるかはわからない。特に日本人にとってはであるが、何しろとんでもない円安である。ちなみに2016年6月のユーロの対円相場は119円で本日は156円、131%にもなっている。為替を決めるのは、金利と通貨供給量が基本であるが、根っこは国力であると思っている。要はこの8年度で日本の国力が相対的に3/4になってしまったということに近い。
‘Japan as No,1’、1$=75円などという時代を見てきた者としてはまさに隔世の感であるが、愚痴を言っても始まらない。見方を変えれば為替が3割違うということは、海外でモノやサービスが売れれば国内より3割高く売れるということである。デフレ基調の経済がようやく僅かな物価上昇に転じて政府は喜んでいるが(庶民にとっては憂慮の部分も多く、国としては一喜一憂であるが)、コスト上昇はそれ以上なので企業にとっては厳しさが増すばかりである。もし海外市場に活路が求められれば、商品価値がほぼ自動的に3割アップというのも夢ではないだろう。日本のコンテンツ力は漫画やアニメに代表されるが、昨今のインバウンド増加が示すように、国としての魅力度と言うことでは世界に冠たるものがある。旅行の目的地としての価値は、1.自然、2.文化、3.食 と言われているが日本は三拍子揃っている。意外に三拍子の国は世界でもそれほど多くない。またそれぞれが地方によって多様性を持っている、これも強みである。
印刷業は非常に地域密着度が強い産業であるが、よく言えば地域の情報ハブとして機能している。すなわち直接,間接問わずローカルコンテンツの集約の場と言えるだろう。官民協業、業界連携、何かをトリガーとして、海外市場へビジネスを広げてゆく術はないのかと思ったりする。それは必ずしも海外で印刷物という’モノ‘を直接販売するということではなく、海外の需要を引き付けて日本のビジネスに繋げるということである。
ただ往々にして、前記のような時間がかかりそうな動きよりは、個社や小グループの海外ネットとの提携などの方が成功に繋がりそうな気がしないでもない。drupaで外国企業、海外印刷会社の動きがどうであるか、単に機器の新製品だけでないビジネスの試みを見つけてみたいものだ。特にヨーロッパ諸国ほど、他国の商売を引き入れる術に長けていることはないと思うからである。
【著者紹介】
荒井 純一
1959年東京生まれ。コニカミノルタ株式会社にて長くデジタル印刷事業を担当。立上げより20年余、商品企画から国内外の市場展開まで広く活動を行い基幹事業への成長に導く。2023年より一般社団法人PODi顧問。