用紙のコストが印刷機の選択に与える影響など、パンデミックによって引き起こされている生産の変化について、ITストラテジーズ社副社長のマルコ・ボア氏との対談。
ITストラテジーズ社は、印刷機メーカーが変化する市場に合わせて新製品を開発する際に、先を見越した支援をすることで、その地位を確立しています。今回、同社の副社長Marco Boer氏との会話は興味ある内容です。 印刷業界がCOVID-19パンデミックに起因する「新しい日常」に適応する中で、印刷産業の全体像がどのように形成されつつあるかについて、彼は次のように語っています。
ハイジ: トランザクション文書が減少している中、インクジェットの成長は他の市場の力に牽引されています。そのことについて少しお話いただけますか?
マルコ:はい、トランザクションプリント(利用明細等の通知印刷物)は減少し続けています。私たちの数字によると、数十億ページ単位で、2019年だけでもレターサイズ(A4サイズ相当)のモノクロインクジェット出力が1190億枚プリントされており、年平均成長率(CAGR)はマイナス4%の割合で推移しています。そして2024年までには950億枚に減少すると予測されています。一方ダイレクトメールについては、2019年にインクジェットでプリントされたページ数は1,200億ページで、年平均成長率(CAGR)が11%の成長率で2,010億ページになると予測されています。つまり、ダイレクトメール全体が減少している一方で、インクジェットによるプリントは急速に増加しているということですね。
ハイジ:この成長の要因は何でしょうか?
マルコ:理由の一つは用紙のコストです。パンデミックの影響で、一時的または恒久的に閉鎖する製紙工場が増えています。それに伴い、用紙生産のスケールメリットが失われつつあります。これにより、オフセット印刷機で印刷されたページのコストと、インクジェットプリントのコストの差は、さらに縮まることになります。このような環境下では、顧客からのレスポンス率が1%や2%の反応率で、10万枚を郵送することは、もはや意味がありません。郵送される通知物は何であれ、より関連性の高いものでなければなりません。
ハイジ:これはトランスプロモにも効果があるのでしょうか?
マルコ:私たちはトランスプロモという言葉を信じていません。”トランスプロモ”とは、トランザクションの通知に、自社の製品を宣伝するため広告宣伝部門にプリントスペースを貸すことを指していました。しかし、このモデルは実際には実現しませんでした。代わりに、トランザクションの通知物に、新しいサービスの提供や、お金を節約する方法など、顧客に対して教え導くために、そのスペースを使用するようになりました。これは本来の意味でのトランスプロモではありません。
顧客に対して、トランザクショナル・コミュニケーションが焦点を合わせた情報を提供することに重点を置くようになるにつれ、トランザクション・コミュニケーションとダイレクトメールの定義も変化していくことが予想されます。リコーは数年前から「クリティカル・コミュニケーション」という言葉を使い始めました。便利な言葉ですが、使い始めたのが早すぎました。しかし、2024年までには「クリティカル・コミュニケーション」という言葉が定着し始めていることでしょう。例えば、電力会社を考えてみましょう。電力会社は新しい発電所の建設を控えたいので、顧客に電気の使用量を減らすようにインセンティブを与え、それを奨励するための告知に、このスペースを使っているのです。
ハイジ:長期的には印刷にどのような影響があるのですか?
マルコ:パンデミックから抜け出すと、暫くは我慢が必要になるかもしれませんが、印刷は引き続き堅調に推移するでしょう。しかし、オフセット印刷は当初考えていたよりも2年も早く消えると予測しています。パンデミックがその衰退を加速させています。
ハイジ:印刷業者はどうなのでしょうか? 彼らへの影響は?
マルコ:この状況から抜け出すと、印刷会社の数はかなりの割合で減少するでしょうね。ビジネスとして限界があるようなところは消えていくでしょう。特に小規模の会社、つまりかろうじて持ちこたえていた会社や、上位で規模も大きい会社は縮小していくでしょう。しかし、市場の中間層、2,000万ドルから7,500万ドルの中間層の会社は、かなり好調に推移すると予想されます。彼らは、より多くの自動化に追加投資するのに十分な資本を持っており、労働力を劇的に削減する必要に迫られています。今後は労働力を確保することが難しく、支払う余裕もなく、そして今は、労働力を大量に必要ともしていないのです。それがオフセット印刷の衰退をさらに加速させるでしょう。すでに中規模の印刷会社はこの時期を利用して、オフセット印刷機を処分しようとしています。
ハイジ:最終的には、印刷量は減っても、関連性の高いものになるということですか?
マルコ:そうです。倉庫の中に眠っていて時代遅れになって仕舞い、結果として30%が廃棄物となるマーケティング用販促物は成立しません。オフセット印刷での1000枚あたりの製造単価が最も低いという考え方は永久に壊れて仕舞うのです。
ハイジ:他にはどんな影響がありますか?
マルコ:刷色が特定のパントンカラーに正確に一致しなければならないという時代は消えていくでしょうね。刷色の一貫性はますます重要になってきますが、買い手の殆どは色見本帳のPantoneが 104でも105でも106であっても気にしません。印刷会社が最初の製造で刷色を合わせることが出来なくとも、2回目には合わせることができるでしょう。クライアントは無駄な在庫に大枚なお金を払いたくないので、ますますこの考え方を受け入れています。
印刷に関してのゴールポスト(目標と役割)が劇的に動いています。印刷物の品質は安定していなければなりませんが、最終的により重要なのは、印刷されたコンテンツが関連性を持ち、説得力があり、そして印刷物が意図していたことを正しく反映しているか否か、ということなのです。
By | Heidi Tolliver-Walker |
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Published | August 19, 2020 |
原文 | Marco Boer of IT Strategies on How the Pandemic Will Drive Inkjet Growth |