この記事では、印刷工場の労働者をウイルス感染から守り、インダストリー4.0を導入することで、より良い、より収益性の高い企業体質を手に入れる方法を取り上げています。
グラフィック・ロボティクス社 ヘンリック・クリスチャンセン著
コロナウイルスは印刷業界に大きな打撃を与えましたが、多くの不測の危機と同様に、状況を再考し、より高い収益性を生み出す可能性のあるソリューションを用いて、より豊かな未来への新しい道程を見つける機会を生み出しています。
コロナウイルスや未知のウイルスや病気に対する最も緊急かつ重要な課題は:”どのようにして貴重で熟練した労働者を感染から守るか”です。正解を導くのに魔法は必要ありません。”新しいレベルの自動化とロボット化で、労働者同士の接触を縮小すること!” それは印刷業界に於けるインダストリー4.0の実装です。
インダストリー4.0が労働者を削減する
もしかしたら、コロナウイルスという不幸な状況が、印刷業界にインダストリー4.0を導入するという夢のシナリオを生み出したのかもしれません! 時には革新者の存在や外部からの圧力から影響を受けたとしても、すべての重要な開発はその必要性が母となって生み出すというのは、長い間に確立された事実です。そして需要は、生み出すよりも満たす方がはるかに容易なので、労働者を削減したいという需要は、インダストリー4.0を推進することになります。なぜならそれが省人化を実現する最も容易な方法だからです。
印刷会社がこのような結論に至るには多少の配慮が必要であり、最初の印刷会社がこの道を歩むにはかなりの根性が必要になるでしょう。しかし、”根性無くして栄光なし!” そしてコロナウイルスに牽引された需要により、その印刷会社は、自動化されロボット化された生産システムの利点を全て享受することができます。
印刷生産プロセスには、さまざまな独立した生産工程で構成されているため、インダストリー4.0を最大限に活用するための最善の方法は、まず最も労働集約的な生産工程に焦点を当てることでしょう。
多くの印刷会社のバランスシートを調べてみると、メインである印刷工程の給与コストが売上高の約15%を占めているのに対し、後加工部門では約50%となっている。これに加えて後加工部門には、重量物を扱う危険を伴う手作業や、運搬を伴う作業が多いので、この後加工部門のロボット化を優先しなければならないことは明らかです。
ロボットと人件費の比較
後加工工程における自動化とロボット化が、なぜこれほどの時間が掛かっているのか、色々な推測をすることができます。私自身の結論は、後加工工程に於ける最も効率的なロボットは複雑で高価であり、設備価格が25万€(3000万円)程度の後加工機に、40万€(5000万円)のロボットを加えることは、300万€(4億円)の印刷機に加えるよりも、はるかに難易度が精神的に高いということです。
当面の疑問として、生産設備よりもロボットの方が、価格が高いというのは何かがおかしいような気がします。
しかし、このロボット化へのアプローチは根本的に間違っています。なぜなら、ロボットは他の機器との比較ではなく、労働コストとの関係で算定されるべきであるからです。ロボットは道具であって、労働力を補完し、労働力と相まって他の機器の能力を向上させるためのものです。ロボット化を正当化するのは、この流れになります。
印刷製品を印刷から後加工工程に向けて移動させるには、特定の数の作業者が必要です。1人の作業者を削減することは、どの工程から削減すれるかは問題ではなく、総給与コストに影響を与えます。問題の核心は、”作業者1人あたりどのくらいの新しい能力が追加されるか “であって、”装置の価格はいくらか “ではありません。
ロボットがハイテクな職種を作る
ある後加工ラインにロボットを追加することで、作業者の数が50%削減されると仮定してみましょう。これは、ウイルス感染リスクの低減と会社の収益性向上の両方に大きな効果があります。上の図では、コスト削減は8%なので、25%の利益を計算すると、33%の利益率の向上になります。
また、自動化やロボット化を行うことで、作業者のスキルが向上し、知識集約的な作業になり、汚くて疲れる生産環境での作業を嫌う新世代の作業者にとっても魅力的な作業になります。ロボット化は生産ラインをより生産的なものにし、それにより高い給料を可能にし、より高い給料はより良い労働条件となり、新しい熟練した労働力を引き寄せることを容易にします。
そしてもう一つ:手作業を自動化とロボット化が引き継ぐと、機械の近くに作業者を配置する必要性が減ります。作業者の仕事は、ある程度リモートで行うことができる監督者機能に変わるので、これにより作業者同士の物理的な接触が削減され、感染のリスクも減ります。さらに監督者は単一のラインだけではなく、きっと複数をこなせるでしょう! これは、会社の収益性と感染予防の両方に作用して、純粋にWin-Winが実現します。
モバイルロボットが人との接触を減らす
次のステップは、作業者が様々な生産工程の間を移動することを防ぐことです。これには、オフセット印刷のプレート(CTP版)をプリプレス部門から印刷現場に移動させたり、半完成品のパレットをある生産部門から別の生産部門に移動させたりすることを指しています。各生産部門について適切に自動化・ロボット化することで、生産部門で新しいパレットが必要になったときや、生産された製品を載せたパレットを次の生産部門に転送する時の制御が可能になり、仕掛品在庫の管理が容易になり、生産部門間の移動をロボット化することで、材料不足による生産時間のロスをなくすことができます。最後に、生産部門間で移動ロボットを使用することで、作業者間同士の接触を効果的に減らすことができ、「社内の作業員の接触を減らす」という目的の達成が可能となりました。
ロボットで単価を下げ、環境を守る
後加工工程をロボット化することで製造単価が下がり、賃金が低い遠方の地域に生産を委託する必要がなくなるため、消費者に近い地域での生産が可能になります。これにより、納期が短縮され、長時間の輸送の必要性も減り、これもまた環境に非常に良い影響を与えます。
また、ロボットが病気になったり、おしゃべりのために通りかかった素敵な同僚に気を取られたりすることがないことも重要です。したがって生産は計画通りに効率よく進められ、想定外のダウンタイムは減少します。最後に、後加工作業には多くの「人の手による作業」がありますが、これは生産品質に大きな変動をもたらす可能性があります。これはロボットでは決して起こりません。
生産ノウハウ
不幸なパンデミックの状況は、高度に専門化されたグローバルな製造ネットワークが如何にに脆弱であるか、また、ある地域での些細な問題が、別の地域に大混乱を生み出して仕舞う可能性を示しています。このことは、現状でたとえ調達価格が最安値でなくても、供給体制をより安全なものにするために、重要なものについては外注生産を内製化し、現地で生産することを望む声となっています。しかし、ここで一つだけ、厳しく注意しなければならない要因があります。それは”外注してしまって、生産のノウハウが失われてしまった場合はどうなるのか?”との課題です。
写真:日本刀は、古来の非常に高度な技術で生産されており、一旦失われて仕舞うと再生はできません。
高度に専門化された生産ノウハウは一朝一夕には確立できないものが多く、ロボット化したからといって作業者のスキルが不要になるわけではないので、この点は非常に重要です。高度な技術を持った監督者は、ロボットの制御方法を知っていることはもちろんですが、総合的な印刷・後加工のノウハウを持っていなければ、ロボット化された後加工ラインを最も効率的に監督・制御することができません。
すべての生産ノウハウが永遠に失われる前に、ロボット化プロセスを開始することが非常に重要であることを歴史が教えてくれています。失われたノウハウを再生することは、非常に労力と費用がかかり、時には不可能なこともあります。
社会的な接触を求める時の対処法
もう一つの課題は、多くの人が大きな職場組織で働くということは当然のことながら、他の人との社会的な接触が伴って仕舞うことです。潜在的な病気の蔓延を抑えるため、職場内での身体的接触を制限しても、仕事が終わった後のランチルームや居酒屋で従業員同士が仲良くしていては意味がありません。
コロナウイルスは去って行き、もちろん私たちは物理的な接触のある通常の生活に戻るでしょう。このことからの重要な教訓は、潜在的な危機によって与えられたあらゆる機会を常に利用して、新たな危機に対処するために可能な限り最善の方法で組織を適正化することであり、常に自分の手の届く範囲で、最高かつ最新の技術を使用することによって行うことができます。
By | WhatTheyThink Guest Contributor |
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Published | August 10, 2020 |
原文 | Printing Plants and Robots After the Coronavirus |