Print Applications in Times of COVID-19 WhatTheyThink?

WhatTheyThinkの欧州担当であるRalf Schlözerが、 COVID-19パンデミックが各種の印刷物に与える影響を、短期的、長期的に分析する。

COVID-19が印刷業界に甚大な影響を与えている事は疑いが無い。現在の被害については既に多くの懸念が挙げられているが、将来についても考えなければならない。このような危機的状況にあって、どのように、またどれくらいの期間において、人々の生活に、そしてビジネスに影響を与え続けるのかさまざまな憶測が存在する。数カ月後には危機的状況は郁分収まっていくであろう、という意見が多いのは確かであるが、ウィルスの専門家にはさらに1年の制限が必要であると予測している。

予想通り、消費者の行動とメディアの利用は先月頃から大きく変化している。単にNetflixがCOVID-19で荒稼ぎした、という話ではない。ドイツの市場調査会社のAppinio社の調査が面白い結果を示している: テレビとストリーミングサービスが増えているのは明白であるが、26%の回答者は読書が増えた、19%が新聞と雑誌が増えたと答えている。ボードゲームで遊ぶ、も20%増加している。購買行動も影響を受けている。大きな買い物への興味は減少し、書籍、ゲーム、家庭用品、さらには事務用品等により多く消費している。これは印刷に何を意味するか?

この危機において伸びる印刷物

印刷物 成長要因
書籍 家で過ごす時間が延び、読書時間が増加
写真関連商品 フォトブックを製作する時間が確保、他の写真印刷も同等
新聞 情報源として読む時間の増加
雑誌 情報源として読む時間の増加
事務所でのプリント ホームワークを支えるドキュメントの印刷
ダイレクトメール、カタログ 広告印刷物が在宅の顧客に届けられる
チラシ 新聞、雑誌、DMの増加が好影響
ボードゲーム、パズル 屋内での時間増加
家具装飾 自宅で過ごす時間の増加
サイネージ 情報に対する要求が高まる
健康関連 抗菌性の紙、ラベル、情報シート

家で過ごす時間が増え、読書が増えている。多くのフィクション、ノンフィクションが売れている。レストランが閉鎖され、料理本も絶好調である。 室内で過ごす時間が増え、塗り絵の需要も増加している。 自己啓発本も需要があると睨んでいる。しかしながら全ての本が好調なわけではない。旅行関連は大幅減である。マニュアルも大型の商品に紐付けられるため、苦戦するであろう。しかし関連商品で売れ筋もある。例えばフォトブックである。もしこれまでハードディスクやスマホのフォトフォルダーの中身を整理する時間が無かったとしても、今はその時間は出来るようになっている筈だ。

伸びる書籍需要を阻む物は、物流である。 私は街角の本屋を愛する者であるが、残念なことに伸びるのはAで始まる会社に代表されるオンライン書店であろう。私はいつかこの会社が強力なポジションを利用して、紙の書籍よりも利益率の高い電子書籍を押すのではないかと恐れている。読者は紙の書籍を好んでおり、電子書籍が停滞しているのは周知の事実である。しかしこの例外的な条件が購買パターンを変える可能性がある。

この不安定な時期に数多くのニュースが読者を直撃し、さらにそれらを読む時間が増加しているのを考えると、新聞と雑誌が復活を経験するのも不思議ではない。しかしながら直面している課題も大きい。これも物流である。ほとんどの国で定期配送は維持されているが、ニューススタンドでの売上は大幅に落ち込んでいる。しかしながらスーパー、コンビニ等の棚には利益がある。イギリスでは地域のフリーペーパーや無料の雑誌は既に宅配に切り替えられているが、これも減少する。一旦手に取れば、新聞、雑誌はそれぞれのカテゴリーで競争しながらも大いに価値がある。雑誌の発行の減少の多くは、伝統的なテレビ雑誌の消滅にある。この減少は落ちつき、ストリーミング配信のメディアの新しいタイトルが成長を始めている。ニュース雑誌への需要は、面白いタイトルが増え、読者の時間も増えていることから、舞い上がっている。顧客向けの雑誌には、企業がその顧客に伝達したい、コミュニケーションを取りたいというニーズから新しい機会を見つけられるかもしれない。

事務所でのプリントにもチャンスがある。名刺の印刷は個人同士の出会いが減るので減少が見込まれるが、在宅勤務が増えることで、事務用品、カレンダー、レポート類、ノート類等の増加が見込まれる。しかし経済活動全体が減少していることにより、全体像は見えにくい。

家に閉じ込められた消費者向けに宣伝するため、ダイレクトメールとカタログの需要増加が見込まれる。家で過ごす時間が長くなるにつれ、それらと接触する頻度が高くなり、効果が増していく。 こちらも物流が鍵となる。より情報伝達の性格の濃いもの、個人や会社に新しい規定を知らしめる、サービス内容の変更を伝える、告知する等も連関している。ダイレクトメールが成長することで、新聞や雑誌のチラシにも好影響を与える。大いに成長している小包輸送も、それに印刷物を同梱する機会を与えている。 もちろんこれらは企業が広告費をどれくらい戻すかに依存する。経済理論的にはビジネスが減速するときには広告費は上昇するものだが、現実にはあまり起きない事もある。

スペシャリティーには成長の機会がある。ボードゲームもその一つだ。ボードゲームと聞くとモノポリーを思い出すかもしれないが、ちょっと待って欲しい。私が住んでいるベルリンの近くに、4,000種類を越える種類のボードゲームを抱えている店舗がある。毎年数百種類が追加され、それら全てが多くの印刷と後加工を必要としている。パズルや切り抜き紙模型等もこれに近い。

ベルリンのボードゲーム店 “Brettspielgeschäft”

 

より長く家で時間を過ごすため、家のリフォームや家具も良い機会があるであろう。これは壁紙、壁材、テキスタイル等への装飾印刷の分野であるが、スティッカー、転写紙、立体プリント等に応用できる。

屋外広告はダメージを受けるであろうが、サイネージと情報告知のバナーには大いに需要がある。これら情報告知系は、現在の厳しい危機状況において重要性を増していく。そしてそれに関連する印刷も増えていくであろう。POPもスーパーマーケットで素早く買い物を済ますために重要性を増していくが、他の店舗ではそうでもないであろう。

もう一つの分野は、抗菌性の紙への印刷である。これは病院や公的な場所におけるある種の印刷物にとっては、前提条件になっている。公衆衛生にかかわるあらゆる物は何であれ需要が高まる。

COVID-19が世界経済に巨大なマイナスインパクトを与える事は疑いがなく、それは印刷業界に直結する。販促物、イベント関連印刷物、屋外広告、小売関連印刷物は大きなダメージを受けるであろう。スーパーマーケットで素早く買い物を済ませることにより、苦心して作ったパッケージのデザインの価値さえも目減りさせてしまう。消費そのものが落ち込むことに加えて、だ。そのような中においても、成長機会を持つ印刷物は存在しているのだ。

 

By Ralf Schlozer
Published April 6, 2020
原文 Print Applications in Times of COVID-19

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