印刷生産のワークフローオートメーション (WhatTheyThink?)

ひとつのワークフローで全ての種類のジョブを処理しようとすると、労務費の浪費、利益の阻害だけではなく、納期の遅れなどを招いてしまう。ジョブの種類が変われば、ワークフローの流れも変え、それを自動化するのが現代流である。だが、自動化は、戦略的に考えなくてはならない。一箇所自動化すると他の箇所がボトルネックになってしまう恐れがあるからだ。

どの印刷会社もジョブをワークフローの流れの中で、なるべく人を介在させずに処理したいもの。このコラムを「印刷生産のワークフローオートメーション」と題したのは、ワークフローの自動化と言うと、生産現場に焦点がいきがちだからである。実は、印刷生産は、生産現場に限ったことではない。オーダーの引き合いから始まって、請求書の支払いで完了する。生産現場の手前からはるか奥まで、お客様と御社両者の経理部門まで巻き込むのだ。私の同僚は、印刷プロセス前後の部分を「カーペットが敷かれた場所」と言う。営業、会計士、見積計算などに携わる人達が働く場所は、絨毯が敷かれていて、彼らの給与は、生産現場で働く人たちと比較すると高い。本当のコストを把握するには、彼らの労働貢献度をジョブ単位で、考える必要がある。そうでないと、自動化の本当の効果を把握できないからだ。

もう一人の同僚は、ワークフロー全体の一箇所を自動化すると、意図せずに他の箇所に歪みが生じてしまうことがあると指摘する。ワークフローの一部分に集中してしまうと、コストの低い処で処理されているものが、皮肉にもコストが高い処に移行したりする。プリプレス部門で処理時間を削減したため、逆に経理で1ジョブあたり10$のコストがかかってしまったことを経験した。労務費が低い部署から、高い部署へシフトさせてしまい、コスト増のための自動化となったよい例である。私の父は、「1セントを拾うために、1ドルを跨いでしまう」とよく言っていた。

いまワークフローが見直されているのは何故だろうか。主な理由は、ジョブがロングランのオフセットから、ショートランのパーソナル化されたデジタルプリンティングにシフトしているからだ。労働集約的な従来のワークフローで、200ドルのジョブを2時間以内に処理しようとするのは、まったく滑稽である。どの印刷会社もオーダーの件数が益々増えていき、金額が小さくなり、納期が短縮されていくという現実に直面しているはずだ。デジタル化が進み、オーダー入稿件数が増え、ジョブを獲得し出荷するまでの利益は本当に薄くなってきている。

印刷生産事業を地下鉄にたとえてみよう。ジョブは、路線の上で運搬されるのだが、殆どの印刷会社が、全てのジョブを金額、納期、数量関係なく、ひとつの路線で運んでいるのが現状だ。私がある印刷会社を訪れたときに、営業担当者の机の上に校正図面が置いてあった。彼女がそれをとって校正しはじめると、私は「これってリピートの名刺のオーダーでしょう?なんでいちいちハードコピーを校正しないといけないの?」と聞いた。彼女は、「単にワークフローで定められた業務ルールに従っているだけ」と言う。理由もなく、どの印刷物も同じ扱いをしてしまうのだ。

ジョブは地下鉄の乗客のようなもの。地下鉄に乗車する方法は様々だ。EDIデータのように完全に自動化されたものもあるし、ウエブツープリント経由で流れてくるものもあるし、KodakのInSiteのようなコラボ・校正サイトから来るものもある。もちろん手で運ばれてくるものもあるし、Print MISでカスタマーサービス担当者がジョブを作成する場合もある。

印刷生産のワークフローを地下鉄に例えると以下の通りとなる。

  1. 路線 (ジョブが流れるワークフォローのルート)
  2. 乗客(印刷ジョブそのもの)
  3. 入り口(ジョブが入ってくる様々な入口)
  4. 駅(ワークフローの中で人が介在する箇所)

この例えで考えると、印刷事業で儲ける秘訣は、各種のジョブに合った路線を複数設けることにあろう。そうすればオートメーション用に最適になる。地下鉄には、各駅停車の電車と特急電車が走っており、その他の路線とも相まって、ジョブの種類によって、乗る電車が異なる。その中で最も「自動化向き」の仕事、確定している仕事で在庫があり、顧客からEDI等でリピートが入るものを想定しよう。EDIから入ってくる情報をもとに在庫から出荷するリピートオーダーが良い例だろう。ジョブは自動的に発注、プリントMISシステムに入力され、請求情報はEDIを通じてお客様へ送信される。 このフローでは、 営業、カスタマーサービス、企画、プリプレス、校正、製造、会計などの「駅」には停まらなく、フルフィルメントや発送の業務以外は、人の介在がほとんどない。

もう一方の極端の例は、大量に生産される付加価値の高い複雑な無線とじの初版本だ。このようなジョブは、ワークフローの全ての各駅(部署)に「停車」していく。付加価値が高いため、人が介在し、そのコストもジョブの中に含まれている。まず、お客様から営業担当者への引き合いがあり、正式な見積書が数度にわたって交わされる。受注後、カスタマーサービスが対応し、幾度かの仕様や校正のやり取りがあり、企画、プリプレス、製造、仕上加工、出荷、請求へと流れていく。

ほとんどの印刷会社は、上記のような両極端の例には簡単に対応できる。単純なフルフィルメントは誰でもできるし、大量で複雑なジョブには惜しみなく労働力を注ぎ込む。(印刷会社が最も得意とするところである) 問題は、大半のジョブがこの両極端の間にあることだ。在庫から出荷する完全リピートより簡単なものではないし、初版本より複雑なものでもない。中間にあるジョブへの対応は、複数のワークフローの路線を設けて、随所に自動化を図り、本当に必要なときだけに人を介在させることとなる。

ジョブの路線を定めて設けていくことは、難しい。我々は本能的に印刷をプロセスの種類ごとに分けてしまいがちだからだ。「デジタルプリントジョブの手ほどきはこうあるべき」とか「Web-to-Printのオーダーはこのように流れるべき」など決め付けてしまう。このような考えでは、ジョブをどのように流すべきかの情報が不足していて、上手くいかない。もっと戦略的アプローチをとる必要があろう。

それはまずオートメーション化を可能とするためにいくつかの項目に対してジョブを評価し、クラス分けをすることから始まる。このプロセスによって、特定のジョブに対して新しいワークフローを準備するかどうかを決定できる。オートメーション化を促進する要因をいくつかあげると; ジョブの既知の条件(注文前から分かっていること)、アートワークのバリエーション/品質、注文頻度、注文売上、発注者の数、顧客のオーダー入力の可否等である。 これらの視点からジョブを見ると、どこにオートメーションの労力を集中すべきかが見えてくる。

ひとつ前の文章、Every Print Job Doesn’t Deserve an Estimate(英文)見積もり無用の印刷物もある(和文)で、これらと同じ考えを披露している。我々は現状のビジネスを見つめなおし、ワークフローを印刷業界の変化する流れに適合させなければならない。現状は明白だ;印刷物のライフサイクルは“常に変更可能”なデジタルの競合相手によって圧縮され続けている。これは、より小ロット、よりパーソナルに、少ないオーダーが数多く、に帰結する。この変化から利益を守るためには、ビジネスにおけるジョブの流れ方を変えざるを得ず、ソフトウェアこそが自動化を果たす主要な武器となるのだ。

 

 

  

whattheythinkmini
By Jennifer Matt
Published 2016年3月23日
原文 http://whattheythink.com/articles/79534-print-production-workflow-automation/

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