マッキンゼーの既存ビジネス企業向け、対デジタル革命(破壊)ガイド:印刷業界への教訓(What They Think?)

2016年9月のマッキンゼー四半期レポートに、既存ビジネスの企業向けデジタル革命対応ガイド、という文章がある。あらゆるビジネスがこのデジタル時代に生き残るために、今日行えるアクションを深く洞察している。この文章ではマッキンゼーのいう革命のライフサイクルを概説し、今日の印刷業界が受けるであろう影響を考察する。

あなたのビジネスが明日生き残るために、今日何をしなければならないか?デジタル技術が加速していく中で、この答えは簡単ではない。幸いな事に2016年9月発行のマッキンゼー四半期レポートMcKinsey Quarterlyで、既存ビジネスの企業向けデジタル革命対応ガイドAn Incumbent’s Guide to Digital Disruptionはいくつかの指針を示している。この文章は、既存ビジネスの企業は破壊的技術革新の犠牲になる必要はない、と説く。成功への鍵は、現在のビジネスがそのライフサイクルでどこにあるのか、アクションを起こすべきなのはいつなのか、を認識することである。

マッキンゼーは、デジタル技術によって破壊された、いくつかの業界にハイライトを当てている。例えば、パーソナルコンピューターの登場は、ミニコンピューターのビジネスを急停止させ、WangやDegital Equipmentといった会社に大災厄をもたらした。IBMはこの破壊を用いて福となし、ソフトウェアとサービスのビジネスに投資を決意する。他の業界でいうとAirbnb(宿泊業界)とUber(車旅行)がそれぞれの市場を破壊している。現在のコミュニケーションにおいて印刷は未だ重要な役割を果たしているが、複数のメディアチャネルのうちの一つに転落した。デジタルの革命に直面して、印刷業界の既存企業は、生き残り、さらに将来において繁栄するために何を変化させるのか、という事を決めねばならない。多くの産業は予測可能なパターンを辿り、印刷業界も例外ではない。企業が生まれたての設立時には俊敏で、新しい試みを厭わない。しかしながら企業が成熟するにつれ、 ルーチンと手順に縛られていく。関心の焦点は、革新から効率性へ、そして確実な結果に移行していく。 一旦ルーチンが固まってしまうと、新たに出現しつつある競合となるビジネスモデルを認識できなくなる。しかしこういった破壊的なアイデアは、ビジネスモデル全体に劇的な影響を与えうるのだ。


破壊のライフサイクル

マッキンゼーMcKinsey & Companyは破壊のライフサイクルを示す“S”カーブを示している。それは既存ビジネスの企業が、変遷する市場の力学に対応するための課題と、それに対する対策を表している。これらの課題は、あらゆる規模の印刷会社が直面している条件と同等である。下図でライフサイクルの変遷と、マッキンゼーの破壊モデルの解説の一覧を示す。

革命は既存ビジネス企業に新しい旅立ちに直面させる[1]



Stage 1: 雑音の中の兆候

この破壊の初期段階では、既存ビジネスの企業は、特にその中核のビジネスにおいてはインパクトをほとんど感じない。単純に言うと、ここで見られる変化に対して、既存ビジネスはアクションを取る必要はないと考える。尋常ならぬ企業家精神を持つ企業だけが、先制の動きをとる必要を感じるだけである。さらに、どのトレンドが単なる風潮で、どのトレンドがビジネスモデル全体に重大なインパクトを与えるのかを、判断するのは非常に困難だ。より鋭く洞察し、この初期において近視眼的な視点から逃れるために、既存ビジネスは独自の理論を作るべきであり、業界で利益を出していくために長く信じてきた、時には絶対的な信念を破壊する準備をしなければならない。


Stage 2: 変化を押しとどめる

この段階ではトレンドは明快になっている。コアとなる技術、ビジネス上の推進力は広く認められだしている。ここでは既存ビジネスは新しいビジネスを育成することを進め、新しい市場に軸を築かなければならない。マッキンゼーは、たとえ二つのビジネスの目標が矛盾したとしても、新規ビジネスはコアビジネスから自主性を保つ事を推奨している。この段階においても、多くの既存ビジネスは売上に影響が出ないために積極的になることができない。生き残りに必須となる前に、アクションをとる先見性が求められる。

既存の印刷会社にとって、いくつかの市場でのトレンドは既に十分に理解されている。どの市場でビジネスをしているかに関わらず(例:出版、パッケージ、商業、広幅)、小ロット、カスタム化、モバイル、ソーシャルメディアチャネルとの統合はどこにでもある。これらの変化は既に存在し、有効なのだ。

マッキンゼーによれば、もっとも多くの既存ビジネスが第二段階で失敗する。彼らは中途半端に破壊トレンドに対応し、小規模な投資しかせず、新しい実験的なことを行うよりは、既存ビジネスへ与える悪影響から守ろうとする。彼らは、中途半端でも参加しているので大丈夫だと思い込んで、失敗するのだ。


Stage 3:将来が扉を叩く

この段階において、将来はそこに来ている。新しいビジネスモデルは旧来のものより優れている事を証明し、確固たる土台を築きつつある。活き残るために、既存ビジネスは大胆に資源を新ビジネスにシフトし、それを成長させねばならない。マッキンゼーによれば、多くの既存ビジネスが第二段階で失敗するが、第三段階でのかじ取りが最も難しいという。会社としての成績が下落すると、既存の確立された会社は、予算が厳しくなり自然と周辺ビジネスを切り離して、コアビジネスに集中しようとする。時には既存ビジネスの中で非常に強い位置にある会社は、弱い会社が影響をより受けるだろう、とみなす。彼らは、差し迫った変化はそれほど大きな影響を自身には与えない、と思い違いをするのだ。もし生き残りたいのであれば、既存ビジネスの企業は、ここで思い切って資源を、既存のモデルから新しいモデルへ移行させなければならない。新しいビジネスは旧来とは異なった運用、時には別の運用が必要なのだ。


Stage 4: “新しい現実”を受け入れる

第四の段階と最後の段階の間では、革新は既に確立されており、業界は永遠に変革されたのだと認めざるを得ない。正しい商品かサービスをこの時点で持っていない企業は悲惨なことになる。これらの企業は、利益は得られず、売上は減少し、新しい市場で地位を確保することが出来ない。マッキンゼーは、Kodakをこの罠にはまった例にあげている。Kodakは写真ビジネスにこだわり過ぎたがため、採用した戦略はことごとく失敗したのだ。


結論:これは何を意味するのか?

マッキンゼーによれば、今日の産業の殆どは革新の第一段階、第二段階、あるいは第三段階にある。 どの産業かに関わらず、いまこそあらゆる産業がデジタル化に移行する時である。個人的には、現在の印刷業界の既存ビジネスの企業は第二段階にある。コミュニケーションにおけるトレンドは十分に確立されたことを認める時期であろう。もし自身がデジタル革命に免疫があると思っているのであれば、それは自らを廃棄することであろう。新しい市場の現実から隠れる事はできないが、準備することはできる。これから数週間に渡って、このシリーズで印刷業界の既存ビジネスで、革新のライフサイクルを理解し、ビジネスモデルを変革させた先駆者に焦点をあてる。締めくくるにあたって、Clay Christensenの言葉を、彼のベストセラ-であるイノベーションのジレンマから引用しよう。“企業は早く動き過ぎる事によって死ぬ事はまずない。遅すぎる事で死ぬのだ。”

[1] 出典: McKinsey & Company

 

 

  

whattheythinkmini
By Barb Pellow
Published 2016年10月6日
原文 http://whattheythink.com/articles/82597-digital-disruption-printing-industry/

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