技術革新で邁進する印刷会社のApex社(What They Think?)

マッキンゼーによると、印刷のような既存ビジネスは、デジタルによる破壊を直視し、将来生き残るため、又は、繁栄するために、いままでと異なった道筋を選択しないといけないという。マッキンゼーが提唱するルールはどの企業にも当てはまるが、今回の記事は、実際にApex Revenue Technologies社という従来印刷を営みとしていた会社が、デジタルによる破壊をうけ、それを直視し、真っ向から技術的革新に取り組むことで、いかに変革を成し遂げたかについて取り上げる。

サマリー

  • 印刷がコモディティ化する中、Apex社は医療健康業界に特化した製品とサービスを提供することにより繁栄することができた。
  • Apex社が発展するきっかけをつくったのは、医療機関の明細書を顧客がわかりやすくするためのデザイン改善であった。
  • 市場が劇的に変化する中、20年間医療健康業界に携わってきたノウハウの蓄積をベースに、患者の支払いにまつわるニーズとその選択肢に対応したメッセージ配信サービスを提供した。
  • Apex社の経営陣は先見性の嗅覚をもっていて、競合が気づくまえに先手で医療健康業界に良質なサービスを提供することができた。
  • 成長未上場企業をランキング する米国で権威のあるInc. 5000 リストに2016年で9年連続掲載された。

はじめに

将来、競争を勝ち続けるには、今なにをしなくてはならないだろうか。新しいデジタル技術が加速するなか、この質問は益々難しいものとなろう。2016年のマッキンゼー四半期レポートMcKinsey Quarterlyに掲載された「既存ビジネス向けのデジタル革命対応ガイド」はその質問に答えてくれるかもしれない。レポートは、既存のビジネスは必ずしも破壊的技術の餌食になる必要はないという。デジタルによる破壊を直視し、将来生き残るため、又は、繁栄するために、いままでと異なった道筋を選択しないといけないと提唱する。既存の企業は知見を磨き、自分自身が歩んできたこれまでの歴史に対して挑戦し、業界で儲かるための常識、または、自分が持っている信念さえも覆さなくてはならないのだ。マッキンゼーのルールはあらゆる企業に当てはまるといえよう。当記事は、破壊をもたらすデジタル技術に真っ向から取り組み革新を起こしているApex Revenue Technologies 社(ミネソタ州 セントポール市)について取り上げる。


Apex Revenue Technologies社について

Apex Revenue Technologies社は、医療健康関連テクノロジーソリューションを提供する会社だ。その事業範囲は広く、電子決済、印刷、郵送、患者対応サービスまでに及ぶ。Apex社のクラウドベースのソフトウェアは、患者の支払い対応、患者への請求業務の合理化、売上げ向上、患者からの代金回収のコスト削減などに貢献しているのだ。

Apex社の創業者兼CEOのBrian Kueppers氏は、医療健康市場の未来のトレンドを読み、それに合わせて戦略を練り、その都度会社の組織を再構築し、印刷、データ、デジタルを網羅した革新的サービスを提供することにより、医療機関の患者との関係を強化しながらクライアント企業の代金回収サイクルを改善してきた。同社は、コモディティ化する市場の中で、医療業界のノウハウとそれに対応した組織づくりを掛け合わせることによって、大きく商機を広げていったのである。Kueppers氏は、Apex社についてこう振り返る。「1995年に会社を創業したときは、主に印刷を提供していまして、社名はApex Print Technologiesでした。その後、弊社は印刷の領域を超え、業態を変えていき、社名をApex Revenue Technologiesに変えるまでに至ったのです。お客様のために測定できる結果を出す最先端の技術と革新的なソリューションを開発・提供することに注力しています」。


革新をリードする

Kueppers氏は、医療機関向けの印刷のブローカーとして、Apex社を自宅の地下室で立ち上げた。「当時の医療機関は印刷と患者の明細書の郵送業務をアウトソーシングしようとしていたので、その市場に参入することを決めました」と回想するブローカーであったKueppers氏は、生産にも関わりたく、自分で印刷会社を立ち上げてしまったのである。データ処理の会社と提携し可変印刷を従来の印刷に加えた。

その後、医療業界は大きな転換期を迎えることになる。「2009年の医療保険制度改革(オバマケア)により米国の医療制度が大きく変わり、個人の患者の医療費負担が68%上昇しました。その結果、医療機関の代金回収がうまく回らなくなってしまったのです。明細書がわかりづらかったり、内容に疑問があったり、患者の自己負担が驚くほど高かったりすると、患者は理由とつけて支払いを遅らせようとします。そもそも、患者の41%が支払い能力で何らかの問題を抱えていましたから」。医療機関は通常、支払いを遅らせようとする患者にたいして同じ内容の請求書を四回送ってから、代金回収代行業者に催促業務を委託する。代金回収代行業者の請求回収率はたったの15%だ。また、請求金額全体の約15%が代金回収不可となり、又は慈善活動として処理される。

Apex社が発展するきっかけをつくったのは、医療機関の明細書を顧客がわかりやすくするためのデザイン改善であった。その後、同社は医療機関と患者両方が明細書をネットで閲覧できるサービスへと事業を拡大。医療機関が、明細書が郵送される前に、「myEasyView」でその内容をみることができ、一方患者は「mySecureBill」で請求書をネットで閲覧し、支払うことができるシステムだ。

「電子配信するようになってから、従来の印刷事業以外でも儲けることができる自信がつきました。20年以上患者の請求データを扱ってきたのですから、患者が医療費を払うときに様々な事情やニーズがあることはよく知っていたのです。それらに対応した良質でレレバント(関連性)なコミュニケーションデザインを提供することにより医療機関が抱える課題を解決できる良いチャンスだと思いました」。2013年にApex社は、Apex Connectプラットフォームの開発を始めた。これが、ダイナミックなコミュニケーションと分析システムへと発展していく。社長のPatrick Maurer氏はシステムについてこう語る。「システムを有効に機能させるには、医者が病気を治療するときのように患者の詳細まで把握しなくてはなりません。弊社のシステムは自社で独自開発したものです。データを患者のカルテ、行動データ、その他の情報源から抽出。それを個々の患者のプロファイルにセグメント化し、医療機関の目標と患者のニーズを合致させることにより、両者の関係が良好になります。状況に応じて、特定の患者のセグメントに向けて、メッセージライブラリーに保管されたメッセージをダイナミックに生成し、意図した目標を達成するために、収入サイクルの中で、複数の患者とのタッチポイントでメッセージを配信するのです。医療機関と患者間のやり取りの結果は、トラッキングされ、ダッシュボードでの分析をモニターすることができます。それによって継続的に改善されていくので、常に結果を最良な状態に保つことができるのです」。

シカゴのある医療機関は、同システムを使い30種類のメッセージを使い分けるキャンペーンを行っている。その成果は、目を見張るもの。代金回収が1200万ドル改善、第一回目の支払いが4%増加、分割払いの利用が17%増加、250ドル以下の負債残高が16.4%減少することにより1700万ドルの増収につながったのである。「印刷会社としてクライアント企業に入りこもうとすると、いかに印刷物を安く提供できるかの値引き合戦に巻き込まれてしまうだけです。通知書で、1セントのコスト削減するよりか、メッセージングを改善して何千万ドルの売上げに貢献する方が、クライアント企業に重宝がられますよね」とMaurer氏は言う。


改革を起こすにはとにかく行動すること

Apex社の経営者の嗅覚は鋭い。だから、常に先手で動く。医療健康業界へ良質なサービスを提供することに関しては、競合が気づく前にいつも先頭を走っているのだ。Kueppers氏は、顧客が何を望んでいるのか、技術の役割、法規制、コスト要因、競合、差別化などについて明確なビジョンを持つ。資金力と専門知識を持つプライベートエクイティ会社(未公開株式投資会社)と組み、適切な技術インフラに投資し、新しい付加価値モデルを構築する。技術インフラの運営と、会社のユニークな価値を具体的に訴求できる技術に詳しい営業チームを編成することも、同等に重要だ。


成果をもたらす破壊的技術

Apex社の先端技術を活用とした戦略が注目されないわけがない。同社は、2013年にNACHAが表彰するGeorge Mitchell 決済システム優秀賞を受賞した。(Apex Revenue Technologies was recognized with the George Mitchell Payments System Excellence Award by NACHA)George W Mitchell氏は、電子決済を提唱した初期の推進者。同賞は、電子決済の開発、実行、振興で優秀なリーダシップを発揮した個人又は団体に表彰される。「Apex社は、医療健康業界で本当の技術的リーダシップを発揮されています。同社はプライバシー規定、複雑なサービス、保険患者負担の折半、コードの変換など消費者向けの極めて複雑な請求業務でACH決済推進に貢献しました」とNACHAはApex社を高く評価する。

また2015年にApex社は、ミネソタ州のハイテク協会で表彰されるTekne賞(Tekne Award)を「成長している小規模ソフトウェア企業部門」で受賞した。同社の Connectソフトウェアプラットフォームは、先端技術を活用し、医療機関が患者のニーズにあった支払い情報と決済方法の提供を可能とし、両者間の財務状況を改善したことが評価された。

それよりもっと重要なことは、破壊的技術に真っ向から取り組むことにより、高い収益性を実現したことであろう。同社は、Inc.誌2016年度5000社リストで、3年間で82%成長したことで、3,729位にランクインした。同誌のリストは、米国で最も成長した未上場企業をランキングするもので、9年連続掲載されたことは快挙である。

Apex社は、最近XeroxのImpikaを導入し、毎月1450万通、2000~2500万枚を印刷している。Impikaを導入する前は、事前に印刷された追い刷り台紙にDocuTechsやDocuPrintなどカットシートリンタを使って追い刷りしていた。インクジェットを導入することにより、白紙ワークフローに移行することができ、シームレスにカラーで印刷したメッセージを挿入することができるようになったのだ。

今年の9月にApex社は、ナッシュビルのLetterLogicと業務提携した。Apex Revenue Technologies joined forces with Nashville-based LetterLogic営業地域を広げ、全国展開するためだ。両社とも医療機関が患者に配信する通知書を処理している。「Apexの売上げは約6000万ドルで、LetterLogicは4000万ドル前後です。両社を会わせると売上げが1億ドル規模になり、その潜在成長率は計り知れません」とKuppers氏は意気込む。


まとめ

印刷業界で成功するには、次世代の技術革新を取り込む必要があろう。Apex社の経営陣は、強い嗅覚で新しいトレンドを嗅ぎつけ、新しい発想で、社内のインフラを再構築し、新しい技術を市場に投入している。同社は、お客様のニーズに焦点を当てることにより、デジタルがもたらす破壊に真っ向から取り組み、そこで生まれた新しい技術を提供することにより、クライアント企業に高い収益をもたらし、医療健康市場で注目される存在となった。印刷業者がここで学ぶべきことは、マーケットインの発想で、適切な投資を行うと、良い結果をもたらすことであろう。

 

 

  

whattheythinkmini
By Barb Pellow
Published 2016年10月13日
原文 http://whattheythink.com/articles/82680-apex-industry-incumbent-innovating-technology/
翻訳協力 Mitchell Shinozaki

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