先日、「印刷は、ネットの派生物になりえる」と調査会社のOutsell社がコメントして、印刷関係者が目尻を吊り上げた。そのOutsell社が、「2016年度年間広告・マーケティング調査」を出版。広告・マーケティングに使われる各種メディア支出の予算を調査したものだが、我が印刷業界の経営者や幹部は、そこに表記されているデータに注目すべきだろう。コミュニケーションに携わる意思決定者が抱える、彼らの視点からの、様々な課題などが見えてくるからだ。我が業界の役割は、お客様が抱える課題を解決するためにあるのではないだろうか。今回のコラムは、ジョーウェブ博士が、Outsell社の調査をもとに独自の視点とコメントを加えたものである。
現在の広告支出のほぼ半分を占めるメディアは、20年前には存在しなかった
Outsell社が、「年間広告・マーケティング調査」Annual Advertising and Marketing Studyを出版した。これは、MarketingLandやAdWeekなど著名なマーケティング・広告関連メディアでもよく取り上げられる調査である。目玉は各種メディアのランク付け。内容をみると、デジタルメディアは、全てランクアップしたか、現状維持した格好。今回の調査で一番目を引いたのが、モバイルの躍進だ。2015年では10位であったのが、35%成長して、今年は5位に躍り出た。一方、印刷メディアは全て下落。新聞は3ランク、DMは2ランク、カスタム印刷、雑誌、ディレクトリなどは1ランク下げた。一見、惨敗とみえるが、粒さにデータを読むと、印刷業界にもビジネスチャンスがあることが伺える。
以下メディア支出予算のランキングチャートは、MarketLandの記事から抜粋したものである。詳細データは残念ながら入手することができなかった。印刷に関して言えば、印刷コストだけではなく、全体のコストを含む。DMの場合は郵便料金が含まれているし、出版物は出版社の販売価格がそのまま反映されている。注目すべきことは、ここに表記されているメディア支出のほぼ半分が、20年前に存在しなかったことだろう。
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Outsell社の調査で、マーケター(マーケティング担当者)が今一番注力している課題は、「顧客体験(カスタマーエクペリエンス)の最適化、パーソナル化、そしてクロスチャネルを支援するためのクリエーティブとコンテンツ力」だという。印刷会社は、これらのコメントに注目すべきであろう。
調査の中で述べられているもうひとつの重要なコメントは、マーケターの最大の悩みが、「取引業者が製品を押し売りしてくるだけで、本当のニーズに対応したソリューションを提供してくれない」ことだ。印刷会社の皆さんは、本当にクライアント企業のニーズを把握しているだろうか。自分が「金槌をもっているので、すべてが釘にみえてしまう」といったシンドロームに陥っていないだろうか。
印刷会社のクライアントの多くはB2Bマーケターである。彼らのニーズは、新規顧客獲得のリードの創出と、その育成だ。その目標を達成するために適しているメディアは、以下の順だという。
- ウェブサイト
- イベント
- ソーシャルでのつながり(ソーシャルエンゲージメント)
- カスタム印刷ソリューション
この順は興味深い。まず念頭に置くべきことは、これらのメディアが連動しないといけないことだ。
ウェブサイトが一位であることはわかりきったことだが、それを有効なものにするには、検索エンジン最適化が鍵となる。また、コンテンツが魅力あるものでなければ、閲覧者の興味を引き、リードにつながっていかない。印刷会社は、そのようなB2Bのクライアントが抱える課題を解決しようとする努力をしているだろうか。最近、動画が一連のマーケティングの中で欠かせないメディアになりつつあるが、それを提供できるよう一部の先進的な印刷会社が既に体制を整えていることをご存知だろうか。そのような印刷会社は、動画で使われたコンテンツをウェブサイトや印刷物にも展開していて、コンテンツの価値を最大限に活かそうと努力をしている。更に、印刷を起点としたコンテンツをウェブサイトにつなげて、リード創出に役立てているのだ。
イベントについては、去年の10月のコラムに私なりの考えを述べた。詳細については、その記事を読んでいただきたい。
ソーシャルエンゲージメントについてはどうだろうか。LinkedInはちょっと前までは、転職するために使うソーシャルネットと思われがちであったが、最近B2Bマーケターにとって、益々重要視されてきていて、欠かせないメディアになりつつある。毎週更新されるザミッシングリンクというポッドキャスト(インターネットでの音楽配信)も欠かせないリソースだ。毎週このポッドキャストは、詳細な資料へのリンクを紹介してくれる。貴社が、事業開発の戦略を取っているならば、マーケティング活動のなかで、LinkedInを最優先させなくてはならないだろう。手始めにお勧めなのが、2015年のベストアドバイスをまとめた年初に配信されたポッドキャストだ。
最後に、この調査について述べたいことは、マーケティングの予算を決めているクライアントの意思決定者の世代が若年化していることだ。私は、これまで印刷を売る経営幹部とメディアの意思決定者の間に世代ギャップがあることを問題視してきた。毎年、私はノースカロライナ州のReleighで開催されるトライアングル・アメリカンマーケティング協会に出席している。昼食会には200名ほどの委員が出席するのだが、うち印刷業界からの出席は2名だけ。私は、その協会の会合で毎年400名のデザイナーや広告代理店の人達と対話している。出席した印刷会社の2社は会場でブースを構えていて、印刷は広告に有効だとうたっていた。印刷業界は、このような意思決定者と対話すべきだと私は予てから主張しているが、印刷会社の幹部の方々は聞く耳をもたない。Outlook社の調査では、今後3年間プログラミックモバイルマーケティングが成長し、ディスプレイ、検索、テレビから予算を奪っていくという。それを牽引するのがミレニアル世代(1980年から2005年ごろにかけて生まれ、ネットに慣れ親しんできた世代)で、古い世代は退場しつつあるのだ。ミレニアル世代の意思決定者を無視することは益々できなくなってきている。彼らが行くところに我々は行かないといけないし、彼らがやることを我々はやらないといけない。でなければ、彼らは、我々をメディアのプレイヤーとして真剣に取り扱ってくれないだろう。印刷会社にとって、彼らの意思決定を支援するためのメディアを提供しなくてもよい選択肢はもはやなくなりつつあるのだ。
By | Joe Webb |
Published | 2016年3月21日 |
原文 | http://whattheythink.com/articles/79499-role-print-media-mix-shifting-economic-perspectives/ |
翻訳協力 | Mitchell Shinozaki |